レポート | ・エントロピー増大の法則 −エントロピーの話し(1)− |
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生命とネゲントロピー −エントロピーの話し(5)−
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第1回の「エントロピー増大の法則」で、「私たちの生命や生活、経済的な営みなどを含めて万物は、根源的に、エントロピー増大の法則という法則に支配されている」と述べましたが、「私たちの生命や生活、経済的な営みは、根源的に、エントロピー増大の法則という法則に支配されながらも、『開いた系』を構成し、エントロピーを減ずることによって成長を遂げている特異な存在である」という言い方がより正確だと思います。 閉じた系と開いた系 図1に示すように、高いところにある水槽Aと低いところにある水槽Bをパイプでつなぎます。水槽Aに水を入れると、水はパイプをつたって水槽Bへ落ちていきます。一度低いところへ落ちた水は、自ら高いところに戻ることはありません。このような過程を『非可逆過程』といいます。 そこで、ポンプを使って水槽Bの水を吸い上げて水槽Aに戻す装置を取り付けたとします。モータにエネルギーを与えてポンプを回すと、水槽Bの水を水槽Aに戻すことができます。 図1のように、外との相互作用がない系を閉じた系(閉鎖系)、図2のように外との相互作用がある系を開いた系(開放系)と呼んでいます。 (非可逆過程) (ポンプを使って水を戻す) 生命体とエントロピー増大の法則 万物は、自然のままにほっておくと、そのエントロピーは常に増大し続け、外から故意に仕事を加えてやらない限り、そのエントロピーを減らことはできない。これが「エントロピー増大の法則」です。 生命体は、食べ物も食べず飲み物も飲まない状態(図3の閉じた系)にほっておかれると衰弱し死んでしまいます。これが、エントロピーが増大したときの生命体の結末です。だから、生命体は、外部と開いた系を構成し、食物や飲物を摂取し、排泄することによって生命を維持しようとします(図4の開いた系)。 食物や飲物が十分与えられても、狭い独房に入れられ、外部と遮断されたら私たち人間はどうなるでしょうか?。『人間は、パンのみに生きるにあらず』。人間は、感情を持ち、知的活動を行っています。精神的なエントロピーの増大は、感情や精神の荒廃を意味します。だから、私たちは情報を欲しがり、人や社会と絆(きずな)を結びたいと願い、芸術に感動したいと思うのです。 ネゲントロピーを喰(く)って生きる 私たちは、閉じた系のままほって置かれると常にエントロピーが増大します。 人間個体のエントロピーの増加ΔS >0 ・・・・式(1) そこで、身体的には食物や飲物を摂取し排泄することによって、また精神的には外部と情報や感情を交換することによって、エントロピーの増大を0にとどめ(現状を維持して)、あるは減じて(成長して)、生きています。 外部から取り込むエントロピー 人間個体のエントロピーの増加 ↓ ↓ −ΔS´ + ΔS ≦0 ・・・式(2) つまり、私たちは、外部から『マイナス(負)のエントロピー』を取り込んで、人間個体のエントロピーの増加をそれで打ち消すか、トータル的にエントロピーを減じることによって生きています。マイナス(負)のエントロピーは、『ネゲントロピー』と呼ばれています。 人間の体温は37℃ぐらいですので、それより温度の高い白湯を飲めば、体内に熱量(エネルギー)が蓄積されます。でも、私たちは、白湯やおかゆだけで生きられるでしょうか。どうしても、肉や魚や果物など質の高い、美味しくって滋養のある食べ物が食べたくなります。エネルギーの量だけでなく、エネルギーの質が問題なのです。 エントロピーは、『エネルギーの質』を表しています。私たちが、美味しいと思って食べている食べ物や、役に立つ情報、素晴らしいと感動を覚える芸術などがマイナス(負)のエントロピー、すなわち『ネゲントロピー』なのです。 社会とネゲントロピー 私たちの社会や経済活動は、『ネゲントロピーを喰って生きている生命体』に例えることができます。大気中に含まれる温度の低い熱量やゴミや廃棄物となった質の低いエネルギーがいくらたくさんあっても、人間に有用な仕事を取り出すことはできません。 社会や経済は、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)や太陽エネルギー、バイオマスなどの質の高いエネルギーを消費して、廃熱や廃棄物として放出することによって、ネゲントロピーを取り込んで活動せざる得ないのです。 よどみに浮ぶうたかたは・・・ 私たちの生命や生活、経済的な営みは、エントロピー増大の法則に逆らって、エントロピーを減ずることによって成長を遂げている特異な存在です。 身体は、絶えず新陳代謝を繰り返し、遺伝子情報は新しい細胞に引き継がれ、情報が失われることはありません。子供たちは、肉体的、精神的、知的、情緒的に日々成長を遂げています。 しかし、「エントロピー増大の法則」という自然な流れに逆らっているわけですから、生きるということは、本来、きつくて辛(つら)いことなのです。それでも、私たちは前向きに生きて行かずにはいられない。 そして、エントロピー増大の法則に逆らい続けるにも限りがあります。寿命がくれば、外部と相互作用を行う機能が衰え、ネゲントロピーの摂取が困難になります。肉体は、死んで単なる物質と化し、腐乱して、高エントロピーの平準化された土に戻ります。 高温の海面から発生する水蒸気を原動力として発生した台風の渦は、ポテンシャルを高め、物凄い勢いで荒れ狂いますが、海面や地上との摩擦によって次第にエネルギーを失うと「温帯低気圧」となって、やがて穏やかな天候の中に消え失せていきます。 川辺の葦(あし)のはざまのよどみに渦巻く渦は、ちょっとした揺(ゆ)らぎのいたずらで本流に飲み込まれ、大河の流れの中に消え失せていきます。 私たちの生きる太陽系だって、高エントロピーの平準化された大宇宙の中に、局所的に渦巻く渦に過ぎないのかも知れません。 『行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとゞまるためしなし。世の中にある、人とすみかと、またかくの如し』。これは、有名な、鴨長明(1155年−1216年)の「方丈記」の冒頭の部分です。 終わりに 5回にわたって、エントロピーについて書きました。「エントロピー」という言葉を使った、言葉遊びの感じを持たれた方が多いかも知れません。その通りです。「エントロピーの概念で、多くのことを説明したり理解することができる」ということを示したかったのが、この連載レポートのねらいでした。 「エントロピーの増大の法則」から逃れない。だからといって、厭世(えんせい)や諦念(ていねん)が著者のスタンスではありません。根源的に存在する法則に目を向けて、エネルギー問題や地球環境問題に、そして生きることに向き合いたいという思いです。(完) |
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2004.09.01 |
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