レポート  ・エントロピー増大の法則  −エントロピーの話し(1)−   
第1回 エントロピー増大の法則 第4回 感情とエントロピー
第2回 エネルギーの量と質 第5回 生命とネゲントロピー
第3回 情報とエントロピー
エントロピー増大の法則 −エントロピーの話し(1)
高度経済成長にかげりが見え始め、エネルギー問題や環境問題がクローズアップされ出した1980年代の終わりから90年代にかけて、「エントロピーの経済学」と題する本が出版されるなど、ひところ話題となったので、エントロピーという言葉をお聞きになったことのある方、あるいはその内容をご存知の方も多いことと思います。
 
私たちの生命や生活、経済的な営みなどを含めて万物は、根源的に『エントロピー増大の法則』という法則に支配されています。私たちが自分たちの生命や生活を維持しようとする活動、あるいはエネルギー問題への取り組み等は、エントロピーの増大を防ごうとする活動にほかなりません。
 
ところが、「回収した資源ごみをリサイクルして再生する過程は、新たなエントロピーの増大を生む。それで果たして、エネルギー問題を解決しようとしていることになるのか?」という命題を、『エントロピー増大の法則』は提起するのです。
 
エントロピーとは何か? エントロピーは、とても興味深い概念なのですが、何せ、熱力学で導入された理論であって、エントロピーを正確に理解するためには、熱力学の理解が必要になってくるから厄介です。
 
でも、ここでは、力学や物理学を勉強しようというわけではありません。説明が論理的正確さを欠くという謗(そし)りを受けるかも知れないことは覚悟の上で、私たちが日常生活で経験する出来事などを例にあげながら、エントロピーについてできるだけ平易に書いてみたいと思います。下記の通り、5回に分けて連載でレポートします。
 
 
第1回 エントロピー増大の法則
 第2回 エネルギーの量と質
 第3回 情報とエントロピー
 第4回 感情とエントロピー
 第5回 生命とネゲントロピー

 
第1回は、『エントロピー増大の法則』についてです。
 

秩序ある状態から無秩序な状態へ

整理整頓され、秩序の保たれている部屋もほっとけば、そのうち物が散らかっていきます。片付けをしないと足の踏み場もないほどになるでしょう。煙が閉じ込められた箱のふたを開けると、煙は空気中に拡散していって、煙か空気か分からなくなります。
 
冷たい水に熱い湯を注ぐと、最初は湯と水の部分に別れていて温度差がありますが、次第に混ざり合って均一な温度のぬるま湯になります。ぬるま湯は、さらに熱が空気中に放散されて、大気と同じ温度に落ち着きます(変化がそれ以上進まない落ち着いた安定な状態を平衡状態と言います)。
 
人間の動きや行いも同様です。たてよこに整然と並べられた机に座って授業を受けていた子供たちは、休み時間になると、教室を出て思い思いに散らばって行きます。給料日に満杯だった財布の中の一万円札も、一枚、二枚と次第に散財して行きます。
 

覆水(ふくすい)盆にかえらず

びんに入ったインクとコップに入った水があります。この状態では、インクと水は別々に存在し2つの間は区別されていて、そこには1つの秩序が存在します。ところが、インクを水にたらすとインクは水の中に拡散していって、水は薄っすらインクの色に染まります。
 
いったんインクが水に混ざり合った後に、水とインクを分離しようと思えば、例えば沸騰させたりして、外から故意に仕事を与えない限り、自然にもとのようにインクと水に分かれることはありません。覆水(ふくすい)盆にかえらずです。自然に元の状態に戻り得ない変化のことを「非可逆過程」といいます。
 
このように、すべての事物は、「それを自然のままにほっておくと、散らばる方向に変化して行き、外から故意に仕事を加えてやらない限り、決してその逆は起らない」という鉄則があるのです。
 

エントロピーとは?

エントロピー(entropy)は、ドイツの理論物理学者・クラウジウスが1865年に熱力学で導入でした概念で、「エネルギー」の en と「変化」(英語では、transformation)を意味するギリシア語 tropy の合成語でクラウジウスによって命名されました。今日、エントロピーの概念は、熱力学や物理学の分野に留まらず、情報理論や経済学、社会科学など、広い分野で応用されています。
 
エントロピーは、『無秩序な状態の度合い』を数値で表すもので、無秩序な状態ほどエントロピーは高く(数値が大きく)、整然として秩序の保たれている状態ほどエントロピーは低い(数値が小さい)のです。
 

エントロピー増大の法則

エントロピーという言葉を使って表現すれば、すべての事物は、「それを自然のままにほっておくと、そのエントロピーは常に増大し続け、外から故意に仕事を加えてやらない限り、そのエントロピーを減らことはできない」ということになります。これが、いわゆる『エントロピー増大の法則』です。
 
エントロピーの低い状態を一言で「秩序ある状態」、エントロピーの高い状態を「無秩序な状態」と表現しましたが、「秩序ある状態」や「無秩序な状態」には、いろいろの様相があります。エントロピーの高い低いと事物の状態との関係をまとめると次のようになります。
 
 
※注記
 詳しくは、第2回で書きますが、「ポテンシャル」とは、エネルギーの「仕事をする潜在能力」のことです。
          

諸行無常

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰の理(ことわり)をあらわす。おごれる人も久しからず、ただ春の世の夢のごとし。たけき者も遂(つい)には滅びぬ、偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ。」
 
これは、平家物語の冒頭の部分です。「諸行無常」とは、「万物で変わらないものはない」、つまり「万物流転(るてん)」、という仏教の教えですが、エントロピー増大の法則はこの教えと通ずるものがあります。エントロピー増大の法則は、「諸行無常」という概念を数式化して表すものと考えることができます。
 
<第2回予告>
お湯を水に混ぜる簡単な理科の実験を通して、エントロピーとエントロピー増大の法則を数値で理解します。そして、エネルギーの「量」と「質」について考えてみます。
 

2004.08.04  
あなたは累計
人目の訪問者です。
 − Copyright(C) WaShimo All Rights Reserved. −