レポート  ・感情とエントロピー  − エントロピーの話し(4) −   
第1回 エントロピー増大の法則 第4回 感情とエントロピー
第2回 エネルギーの量と質 第5回 生命とネゲントロピー
第3回 情報とエントロピー
感情とエントロピー −エントロピーの話し(4)
エントロピーは無秩序な状態の度合いを表すもので、無秩序な状態ほどエントロピーが高く、整然として秩序の保たれている状態ほどエントロピーは低い。このことを、人と人との結びつきに適用すると、知らない人との関係は高エントロピーな関係であり、絆(きずな)が強い関係ほど低エントロピーな関係だということになります。
 
「あーあー、日本のどこかに〜、私を〜待ってる〜人がいる〜」、山口百恵さんが歌った「いい日旅立ち」のこのフレーズは、『低エントロピーへの憧れ』を歌っているといえます。
 

低エントロピーを求める心理
Cさんは、社員が二百数十名の会社に入社しました。会社の体育館に全社員が集まって入社式がありました。Cさんが見知っているのは、採用試験でお目にかかった2〜3人の人だけで、Cさんにとって二百数十名の人とは、秩序の保たれた確定した関係にまだありません。
 
どの部署に配属になって、どんな仕事をするのかもまだ知らされていません。情報もなく、何一つとして確定したものはありせん。すなわち、とてもエントロピーの高い状態にあります。
 
こんな状態は心理的にとても不安な状態であり、早く会社や職場のことを知り、会社に慣れ、気心の知れた友達を作りたいと願います。人に対しても、会社に対しても、職場に対しても、仕事に対しても、確定された秩序のある関係、すなわち絆を結びたいと願うのです。
 

友達から恋人へ
そうこうしているうちに、Cさんは会社にも慣れ、仕事も覚え、気心の知れた友達もできました。異性の友達もできました。最近、Dさんのことが気になって仕方ありません。これは、きっと恋です。
 
Cさんは、Dさんのことについて、いろいろなことを知っているのですが、Dさんが『自分をどう思っているのか』が分かりません。そのことがはっきりしない限り、恋愛という関係の上では、CさんにとってDさんとの関係はエントロピーの低い関係とは言えません。
 
そこで、Cさんは思い切って『自分をどう思っているか』聞いてみることにしました。Dさんからその回答をもらうと、どんな回答であろうと(『貴方のことはなんとも思っていません』という回答であっても)、エントロピーは低くなります。なぜなら、恋愛関係におけるCさんとDさんの関係が確定するからです。
 
もちろん、相思相愛の仲であれば、エントロピーはさらに低くなります。『世界でただ貴方一人!』。世界の人口は約61億人ですから、仮に半分が異性だとすると何と30億分の一の確率です。とてもエントロピーの低い状態です。だから、『貴方のためなら何でもできる!』、とてもポテンシャル(潜在能力)の高い状態です。
 

そして、『エントロピー増大の法則』が・・・

私たちの感情は、低エントロピーなものを求めて止まない、そして、その感情とて『エントロピー増大の法則』から逃れることはできない。神は、私たちをそのようなものに創造された。
 
「会うは別れの始めなり」といい、絆は、結んだその瞬間から壊れる不安を内包しています。
 
より相手の実態が見えてきたり、経済的なことや他人の横槍や悋気(りんき)などの外の原因や、慣れや倦怠(けんたい)、惰性といった自分の感情や意識の変化などの内なる原因等によって、エントロピーは常に増大しようとします。
 
だから、『世界でただ貴方一人!』『貴方のためなら何でもできる!』という情熱をずっーと持ち続けるのは容易ならざることです。エントロピーの増大によって、雑然として希薄になった感情は、ほかの何かに、ほかの誰かに熱情を求め、ポテンシャルを高め、エントロピーを低めようとします。
 
『悟ること』『諦念(ていねん)』、それは『エントロピー増大の法則』の流れに身を任(まか)すことにほかなりませんが、流れに掉(さおさ)して流されようとなお、低エントロピーを志向して止まない。私たちは、そんな存在のように思われます。
 
<次回予告>
「生命体」や私たちの「社会」は、『エントロピー増大の法則』に抗して、常にエントロピーを減らすことによって成長を続けています。すなわち、私たちは、『マイナス(負)のエントロピー』を喰(く)って、個体や社会内部のエントロピーを減らすことによって生き延びているのです。『マイナス(負)のエントロピー』の概念は、『ネゲントロピー』 と呼ばれています。
 
さて、私たちは、いつまでネゲントロピーを喰って生き延びられるのでしょうか? 次回は、最終回です。『生命とネゲントロピー 』について考えます。
 

2004.08.25 
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