レポート  ・真の意味の食料自給率とは? 〜 エネルギー利益率(3)   
 第1回 ピークオイルと石油減耗
 第2回 代替エネルギーは代替たり得るか?
 第3回 真の意味の食糧自給率とは
 補 遺 不耕起栽培と冬期湛水
真の意味の食料自給率とは? 〜 エネルギー利益率(3)

農林水産省の試算によれば、わが国の現在の食料自給率は、カロリーベースで40%という低い値にあることは、皆さんご承知の通りです。では、エネルギー自給率はどうなのでしょうか?
 
原子力発電からの電力を国内生産分に含めても、ウランを輸入に依存していることを考慮すれば、わが国のエネルギー自給率は、約 6.4%に過ぎず、約94%を輸入エネルギーに依存しています[1]。
 
以上のことを念頭に置いた上で、農業におけるエネルギー収支について考えてみましょう。1950年から1974年までのわが国の水稲栽培における投入エネルギーについて計算した宇田川武俊氏のデータがあります[1][2]。下表は、その中から、1950年(昭和25年)と1974年(昭和49年)のデータを抜き出して表示したものです。但し、エネルギーは、1カロリーを4.19Jとして、カロリー換算で表示してあります。
 
       表  水稲栽培における投入エネルギー(単位:万カロリー/ha)
            出所:宇田川武俊/環境情報科学(1976年)
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                     1950年 1974年 対1950年比
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 産出エネルギー(玄米収量換算)     1163  1774    1.53倍
 投入エネルギー(燃料、肥料、機械類など) 916  4712    5.14倍
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          エネルギー利益率   1.27  0.38

 
わが国の水稲栽培は、1950年代後半までは産出エネルギー(生産された米の熱量)が投入エネルギーを上回っていました。その後、補助エネルギーの投入(例えば、機械化や化学肥料の使用など)がなされるようになると、馬や牛の畜力や人間の労働力の削減が可能になり、1ヘクタール当りの収量も増加した反面、投入エネルギーが産出エネルギーをはるかに超えるようになりました。
 
1950年と1974年を比較してみると、労働力の投入削減と1.53倍の収量増加のために、投入エネルギーを5.14倍に増やさざるを得なかったことが分かります。産出エネルギーを投入エネルギーで割った値である”エネルギー利益率”は、1950年に1.27だったのが、1974年には、0.38になり、エネルギー収支は完全な赤字になっています。
 
投入エネルギーのほとんどが、農業機械等を動かすための燃料と、化学肥料等の製造に使用される石油からのエネルギーなのです。いわゆる、”石油に浮かぶ農業”といわれる所以です。
 
機械化され化学肥料を使った農業で、農作物の国内生産率を上げたとしても、農業機械等を動かすための燃料や化学肥料等を製造するための石油が入って来なくなると、農業自体がやって行けなくなります。
 
食料自給率を上げることの目的が、たとえ食料やエネルギーが入って来なくても、”自国民の食料は自国で賄う”という食の安全保障にあるとすれば、真の意味で食料自給率を上げるためのあるべき農業の姿、すなわち、畜力や人間の労働力を使った昔ながらの有機農業という姿が見えてくるのですが、それではとても生産効率が悪く、経済活動としての農業はやって行けません。農業をどうとらえ、どう考えたら良いのでしょうか?                                    
 
【参考サイト】
[1]日本における農業とエネルギー
  → http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/pdf_files/tombo.pdf
[2]石油の未来と日本の農業
  → http://ecosocio.tuins.ac.jp/ishii/votinggreen/opinions/pet_agr.html
 

2008.09.30
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