レポート  ・代替エネルギーは代替たり得るか? 〜 エネルギー利益率(2)   
 第1回 ピークオイルと石油減耗
 第2回 代替エネルギーは代替たり得るか?
 第3回 真の意味の食糧自給率とは
代替エネルギーは代替たり得るか? 〜 エネルギー利益率(2)

− 人類は石油可採埋蔵量の半分を既に使ったという。これをあと半分残っていると思って安心してはならない。というのは、残り半分のエネルギー利益率 EPR(Energy Profit Ratio ) は、今までの半分に較べて低下しているからだ[1]。 −
 
エネルギーは、EPR という指標に基づいて、ネット(正味)・エネルギーで評価しなければならないわけですが、資源の質、すなわち、エネルギー生産の採算性を表す指数EPR は、どのくらいの値なのでしょうか?
 
1998年にオーストラリアで発表されたBJ Fleay B Engらの研究結果[2] は、ペルシャ湾岸沿いなどの巨大油田のほとんどがEPR 60と高いのに対して、オイルピーク時の1970年頃のアメリカ油田は、EPR 20で、1985年は10を下回った数値を示しています。同じ石油資源もこのように、そのEPR の値は油田によって大きく異なり、同じ油田でも生産とともにEPR は低下して行くと言われます[1]。
 
また、BJ Fleay B Engらの研究は、直接燃焼させたときの石炭のEPR が30前後、発電のための水力および石炭火力が10前後あるいはそれ以下の値であり、原子力発電やタールサンドやエタノールのEPR はさらに低い値を示しています。
 
東京大学名誉教授で、『もったいない学会』の会長でもある石井吉徳氏は、自噴するなどしていて、簡単に採掘出来る初期の油田では、EPR は 100程度となるが、枯れはじめた油田では10程度に低下し、オイルサンドは流動性のない重い砂から重質油を分離処理する必要があるので、1.5 程度となり極めて効率の悪いエネルギー資源であるとしています[3]。
 
電力中央研究所の天野治氏は、発電電源別のEPR の試算を行い、LNG(液化天然ガス)火力2.14、地熱 6.8、風力3.90、中小水力15.9、原子力17.4、太陽光 0.98というEPRの値を得ています。太陽光発電においては、出力エネルギーと入力エネルギーが拮抗しているわけです[4]。
 
バイオ燃料はどうでしょうか。植物は光合成を行う際に、大気中の二酸化炭素を吸収して成長しますから、バイオマスを利用したバイオ燃料を燃やす際に排出される二酸化炭素は、元々大気にあったものと考えられるため、地球温暖化の原因とはならないとみなされます(カーボンニュートラル)。
 
バイオ燃料は、地球温暖化防止の観点から有望視されているのですが、生産の採算性はどうかというと、原料からバイオ燃料を生産する際や、原料・燃料の運搬において、エネルギーを消費するので、EPR は、トウモロコシを原料としたバイオエタノールで1.3 、大豆を原料としたバイオディーゼルで、1.93程度であるという記事[5] などがあります。
 
このように見てくると、石油がいかに優れたエネルギー資源であるかということが、明瞭となります。私たちは、その石油に依存して今日の文明を享受しているわけですが、ここで、あのピークオイルの左右対称ベル型の曲線を思い出してみましょう。
 
C.キャンベルによる全世界ハバート曲線[1]を見る
   → http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/images/campbell.gif
 
今からわずか42年後の2050年には、石油の生産量が今の約5分の1に減少するだろうという予測があり、ピークオイル論は、楽観的にみても、百数十年後には石油が減耗しきると予測しているのです。
 
代替エネルギーに係る技術開発、特にEPR の向上に大いに期待しなければなりませんが、それにしても、EPR100、あるいは EPR60といった、巨大油田の石油に匹敵する代替エネルギーの出現に期待を寄せるのは幻想という他ないように思われます。
 
では、どう対応すればいいのか?
 
石井吉徳氏の『高く乏しい石油時代が来る〜脱石油戦略を考えよう』と題する論文[1]のあとがきを要約して紹介します。
 
(1)石炭、原子力をどう考えるか。EPR で整理できるのか。
(2)単純に脱石油というのではなく、浪費型社会を可能な限り改めるのが肝要。
(3)人類は地球の本質的な限界、壁に遭遇している。冷静な科学で、原点から考え
   るしかない。
(4)在来型の自然エネルギーに加え、小型分散水力、低温地熱利用など、地域分
   散、地域エネルギーと地方自治体などがキーワード。
(5)早急に解決すべきは、内燃機関用の燃料。ただし、流行に捉われないこと。
(6)バイオ、有機廃棄物の効果的な利用は大切だが、先端技術に過度の期待をし
   ないこと。
(7)思いつきの拙速をしないこと。総合的な論理思考が望まれる。評価にはEPRな
   どネット・エネルギーを重視すること。
(8)地球、自然は有限である、限界に生きる知恵の時代がくると思うべきである。
 
石井氏は、著名な生態学者A.ロトカの次の教訓的な言葉を挙げて論文を結んでいます。『エネルギーが豊富なとき、エネルギーを最も多く使う生物種が栄えるが、エネルギーが乏しいときエネルギー使用最小の種のみ生き残る。』
 
【参考文献】
[1]東京大学名誉教授・石井吉徳氏の『高く乏しい石油時代が来る』
  → http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/opinions/nuclear.htm
[2]輸送関連の各種エネルギー源のEPR
 (BJ Fleay、Murdoch University, Western Australia1998)
  → http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/images/oil_trans.gif
[3]フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』〜バイオマスエタノール
[4]天野治、『EPRから筋の良い方法とEPRを高める方法を考える』
  → 
http://wwwsoc.nii.ac.jp/aesj/snw/katudouhoukoku/
document/amano_epr060823.pdf

[5]バイオ燃料のメリットと問題点
→ http://eco.cute-site.net/eco/biofuel.html
 

2008.09.30
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