お便りから  ・不耕起栽培と冬期湛水   
− 不耕起栽培と冬期湛水  坐忘さんのお便りから

(1)ピークオイルと石油減耗(2)代替エネルギーは代替たり得るか? 、(3)真の意味の食料自給率とは? と題して、シリーズでエネルギー利益率に関するレポートを書きましたが、それらをお読み頂き、農業をどうとらえ、どう考えたら良いのだろうか? という問いかけに対して、大阪市にお住まいの坐忘さんから次のお便りを頂きました。
 
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エネルギー効率と食糧自給率についてのレポート、面白く拝見しておりました。参考論文も斜め読みしましたが、メタンハイドレートは蜃気楼である、という一節には愕然としました。
 
メタンハイドレードにはちょっと期待していたのですがね(汗)。食糧では汚染米が大問題になっていますが、日本が食糧安全保障に正面から取り組む絶好の口実を与えてくれていますね。とはいえ、政局がアレですから、いますぐの対応は期待できません(汗)。数日前に『知るを楽しむ』というNHK教育の番組で、耕さない田んぼが農家を変えるという番組をやっていました。
 
長年、農業技術指導をやってこられた岩澤信夫さんという、千葉の方の手法のご紹介でしたが、『不耕起』ということで、耕すという、石油が必要な行為をかなり減らすことができているようでした。
 
余計なエネルギー消費を減らすことができ、かつ、余暇が生まれ旅行に行けるようになった。田んぼには、病害虫に強く体格の良い根の深く張った稲が育つばかりではなく、たくさんの生き物が戻ってきた。トンボの大群が舞い、大柄な白鳥が飛来し大集団で田んぼで休むという、異様な光景が見られるようになった。この農法、いま急速に広がりつつあるみたいです。
 
さて、先日(2008年 9月26日)は、佐渡で朱鷺(トキ)の放鳥が秋篠宮両殿下の御臨席のもとに行われました。これは岩澤さんの佐渡における不耕起移植栽培と冬期湛水の長年にわたる指導の成果を抜きにしては決して実現しなかったことでしょう。
 
この不耕起移植栽培と冬期湛水(稲刈りが終わった水田に冬期も水をはる農法)という手法は、鳥類を頂点とする里山の生き物の食物連鎖を強力に加速することが実証されています。野生に放たれた朱鷺たちは、人智で野生に近い状態に戻された田んぼの中で餌に不自由することなく生きて行くことでしょう。
 
岩澤さんの不耕起農法のヒントは『わら一本の革命』の著者でマグサイサイ賞受賞者でもある、福岡正信翁から得ているようです。天敵同士さえ平然と共生していける豊穣な世界に至る方法と哲学がそこには示されてありました。
 
あとは津田永忠や山田方谷のような傑出した人材が出て、わが国独自の食糧政策及び環境政策としてきっちりと制度化していくことでしょうね。日本国中で原油の代わりに億兆のイトミミズや微生物が田んぼを耕してくれている光景が見れるなんて、ナント愉快ではありませんか!
 
また、『田んぼ博士の応援隊』というサイトの中に石油効率の数字がありました。それによると、1ha当たりの石油消費は、既存農法で約200L、不耕起移植栽培で約40Lと五分の一。田んぼの全国面積を200万haとすると、既存なら40万トン、不耕起なら8万トンの石油消費となる。これに加え、土を耕し返すことによるメタンガスの発生が、既存なら10a当り65kg、不耕起なら5kgと60kgの差。
 
この差分の60kgは、二酸化炭素に換算すると重量比で3t、ha当たり30トンであるから、200万haが不耕起栽培に変身すれば、6000万トンの二酸化炭素を削減出来ることになるそうです。
 
・不耕起移植栽培による環境保全型農業の全容(岩澤信夫)
 → http://www.tanbohakase.com/diary/diary.cgi?mode=view&no=11&id=ad
 
このほかにも様々な利得がありますが、いずれも環境負荷を大幅に減らす方向にベクトルが向いています。これはやはり国策として技術を確立させて内外に広く浸透させて行きたいものですね。
 
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●坐忘さん、お便りありがとうございます。こうして貴重なコメントや情報をお寄せ頂くことによって、議論の輪が広がり、知識・認識を深められることは、とても意義あることと嬉しく思います。『日本国中で原油の代わりに億兆のイトミミズや微生物が田んぼを耕してくれている光景が見れるなんて、ナント愉快ではありませんか!』  ほんの40年〜50年前までは、田んぼの中にいろんな生き物が見られるのが農村の普通の風景でした。田んぼに上ってきたウナギを夜、カーバイドを燃やした灯りで突きに行くのが楽しかったものでした。
 
岩澤信夫さんのコラム『不耕起移植栽培による環境保全型農業の全容』を読みました。土壌の反転は休眠種子の掘り起こしと土壌中への酸素供給を促進する事により、雑草の発芽と雑草の生育を助ける。逆に、冬期湛水は酸素を中断し、雑草の発芽を抑制する。基盤整備は、乾田化により土壌への酸素供給を促進する。
 
そのような観点も知識もなかったことであり、本当に目に鱗でした。『しかし、残念なことには学会や指導層にはその意識はなく、当事者である農民は更に意識がない』と岩澤信夫さんが書いているように、当の農政および農業に従事している人たちにもそんな観点も、おそらく知識さえないのではないでしょうか。それだけまだ緊迫感がないというとのなのでしょうが、不耕起移植栽培や冬期湛水の取り組みが必要な時期がきっとくることでしょう。 
 
ピークオイルと石油減耗からはじまったエネルギー利益率に関する今回のレポートは、お蔭さまで、期せずして農業問題の根本について知るきっかけになりました。ありがとうございました。これからも宜しくお願いします。
 
※ 不耕起栽培や冬期湛水については、下記のページなどが参考になります。
 ・岩澤信夫
   → http://www.ruralnet.or.jp/ouen/meibo/016.html
 ・日本不耕起栽培普及会
   → http://www.geocities.jp/fukoukisaibai/
 ・田んぼ博士の応援隊
   → http://www.tanbohakase.com/  



2008.10.17 
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