レポート  ・ピークオイルと石油減耗 〜 エネルギー利益率(1)   
 第1回 ピークオイルと石油減耗
 第2回 代替エネルギーは代替たり得るか?
 第3回 真の意味の食糧自給率とは
ピークオイルと石油減耗 〜 エネルギー利益率(1)

著者の住む鹿児島県北部のさつま町とその隣の霧島市横川町にまたがる山間部一帯は、江戸時代、佐渡と並んで日本を代表する金山の一つだった山ヶ野(やまがの)金山のあったところです。付近一帯の地下深くには現在でも金鉱脈が走っているといわれますが、しかし、それを豪語してみたところで、採掘の採算が取れないことには、所詮は詮無きことです。
 
江戸時代前期の1640年、山ヶ野に金鉱石が発見された当初の頃は、とじ金と呼ばれる金粒の塊が付いた鉱石が地表に散乱している有様で、それを露天掘りし、集まった鉱夫の数は2万人にも上ったといわれます。
 
やがて、表層部の金鉱石が採り尽くされ、地面を深く掘削する方法に替わっていきました。さらに、坑道を地中に伸ばす方法へと移行していきますが、次第に採掘が困難になり、ついに、昭和32年(1957年)、山ヶ野金山は、 302年の歴史を閉じました。
 
金の採掘と同様、石油などの資源においても、生産の採算性が重要なことは、まったく同じです。東京大学名誉教授で、『もったいない学会』の会長でもある石井吉徳氏は、資源は、(1)濃縮されていて、(2)大量にあり、しかも、(3)経済的に利用できる位置にあってこそ、『資源』たり得ると述べています[1]。
 
すなわち、現在の私たちの経済や暮らしの基盤となっている『石油』が、だんだんその生産の採算性が悪くなって、山ヶ野金山の金採掘のような運命をたどることはないのでしょうか? 石油が減耗しきったとき、代替となる採算性の良いエネルギーを、果たして私たちは手にすることができるのでしょうか? 『エネルギー利益率』というキーワードを観点に、以下の3つテーマについて調べてみました。
 
  第1回 ピークオイルと石油減耗
  第2回 代替エネルギーは代替たり得るか?
  第3回 真の意味の食糧自給率とは
 
1.エネルギー利益率
 
資源の質、すなわち、エネルギー生産の採算性を表す指標に『エネルギー利益率』(EPR、Energy Profit Ratio )というのがあることは、わが国ではほとんど知られていないようです。エネルギー利益率は、出力エネルギーを入力エネルギーで割った値で示されます。つまり、
 
    エネルギー利益率=出力エネルギー/入力エネルギー
 
ここで、出力エネルギーは、資源から産出されるエネルギー量で、入力エネルギーは、そのエネルギーを産出するまでの過程(例えば、石油の場合だと、油田の探鉱、油田の掘削、原油の輸送、原油の精製など)でかかったエネルギー量です。
 
エネルギー利益率が1を下回ると、エネルギーを生み出すのに、それ以上のエネルギーが必要ということになり、収支上赤字となり、エネルギー生産と言う観点では無意味な行為ということになります。すなわち、エネルギー利益率は必ず1より大きい必要があります。
 
2.ピークオイル
 
世界の石油生産量は、左右対称のベル型曲線を描いてピークを迎え、その後は減少していくという『ピークオイル論』は衝撃的です。ピークの時期については、2008年現在、ピークをすでに迎えたという説や、楽観論では、2030年頃に在来石油が、2060年に石油生産量がピークに達するという報告などがあります[2] が、イギリスの地質学者C・キャンベル氏が発表した曲線は、すでに2004年にピークを迎えており、今から
わずか42年後の2050年には、生産量が今の約5分の1に減少するだろうと予測しているのです。
 
C.キャンベルによる全世界ハバート曲線[1]を見る
   → http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/images/campbell.gif
 
今日、石油の値段が上がっただけで、経済や暮らしに大きな支障が出ているのに、石油の生産量が現在の5分の1に減ったら、それはもう致命的という他ありません。
 
3.石油減耗
 
さらにショッキングなことに、人類はすでに、可採石油埋蔵量の半分を使ったらしいが、『あと半分残っていると思って安心してはならない』というのです。山ヶ野金山の金の採掘と同様、石油についても、人間は、質のよい、取りやすく儲かるものから取ってきましたから、残りのものは『エネルギー利益率』が低下しているというのです。現に、オイルピーク時の1970年頃、20だったアメリカ油田のエネルギー利益率は、1985年には10を下回り、今では3程度に落ちているそうです[3]。
 
つまり、油田の埋蔵量が無くなるのではなく、埋蔵量の中で資源として有効に回収できるものが限られてくるということです。その意味で『石油枯渇』ではなく、『石油減耗』という言い方がされています。『エネルギー利益率』という指標に基づいて、ネット(正味)・エネルギーで評価しなければならないわけです。
 
石井吉徳氏は、次のように述べています[1]。
 
− 人類はその可採埋蔵量の半分を既に使ったという。これをあと半分と思って安心してはならない、何故なら人間は、質のよい、取り易く儲かるものから取るからである。残りの『エネルギー利益率』は、今までの半分に較べて低下している。ネット・エネルギーが少ないのである。この意味でも、20世紀型の石油文明は、終焉しつつあると思わねばならない。−
 
では、エネルギー利益率が良く、石油の代替となり得るエネルギーが果たしてあるのでしょうか? 次号で考えます。
 
【参考文献】
[1]東京大学名誉教授・石井吉徳氏の『高く乏しい石油時代が来る』
   → http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/opinions/nuclear.htm
[2]出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』〜石油ピーク
[3]『エネルギー問題はEPRで考えるのが肝』
   → http://www.asyura2.com/0505/bd41/msg/666.html
 

2008.09.30
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