レポート  ・たこぶね 〜 海からの贈物を読んで(4)〜   
− たこぶね 〜 海からの贈物を読んで(4)〜 −
1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)生まれの、いわゆる団塊の世代の一斉退 職を前にして、昨今『熟年離婚』が話題になっています。熟年離婚、それは子育てを 終えた後、あるいは退職後の男女の生き方、夫婦のあり方の問題ですね。
  
1927年(昭和2年)に、ニューヨーク〜パリ間の大西洋単独無着陸横断飛行に成功し たアメリカのリンドバーグの夫人で、自らも女性飛行士の草分け的存在であったアン ・モロウ・リンドバーグ(Anne Morrow Lindberg、1906〜2001)女史は、1950年代に 書いた彼女の著書『海からの贈物』の中で、人生のそれぞれの段階を貝になぞらえ、子育ての壮年期である『牡蠣(かき)』を終えた後にくるのは『たこぶね』という貝 だと言います。先ずは、とてもユニークな『たこぶね』という貝の話しです。
 
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『蛸(タコ)は昔、貝だった。』世界に約150種類いるタコのうち、6種類のタコがいまだに自ら貝殻を作ることをご存知でしょうか。
 
アオイガイ(学名 Argonauta argo)という貝があります。シンプルな構造で、弾力性のある波打った白色の貝殻が、繊細なレースを思わせる美しい貝です。貝殻を二枚あわせると葵(あおい)の葉に似ていることからこの名前がありますが、殻が紙のように薄いことから、英名でペーパー・ノーチラス(Paper Nautilus)とも呼ばれます。
 
普段は熱帯から亜熱帯の海を浮遊していますが、ときどき貝殻が黒潮に乗って日本にやってきて、日本海沿岸に打ち上げられるそうです。綺麗なので、浜辺で拾ったものを家に持ち帰ってオブジェにしている人も少なくないようです。貝殻が、下北半島の特産として、ネット販売されているので、サイトを覗いて見ましょう。
 
 ・下北特産品WEB 〜 愛と勇気のフォルムArgo
    → http://www.0175.co.jp/argo/
 
この美しい貝は、軟体動物門・頭足綱・八腕目に属するタコの一種なのです。つまり、アオイガイの中味は、カイダコというタコです。貝殻は、最初からあるのではなく、カイダコの8本ある足のうちの第1番目の一対が幅広い形をしていて、そこから石灰質を分泌して、タコ自らが貝殼を作るのです。
 
アオイガイは、著書『海からの贈物』(吉田健一訳・新潮文庫・1967年7月発行)では、『たこぶね』という名前で紹介されています。『たこぶね』という名前で、写真をアップしているサイトがありますので、覗かせてもらいましょう。
 
 ・たこぶね(蛸船) 
 ・タコブネ 市場魚貝類図鑑
 
軟体部(タコ)の長さは40cm前後、貝殻の大きさは20cm以上にもなるそうですが、殻を作るのはメス(雌)だけで、オス(雄)は殻を作らず、軟体部の大きさも2センチ以下と小さく、いわゆる『ノミの夫婦』です。オスは、生殖のための個体で、繁殖期に生殖機能を持つ足をメスの殻の中に残すと、去って行くのだそうです。
 
メスは殻の中に産卵し、孵(ふ)化するまでその中で大事に卵を保育します。つまり、貝殻は、子育てのための揺籃(ゆりかご)というわけです。殻に傷がつくと分泌物を出して修理して、海水が入らないようにします。
 
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アオイガイの学名 Argonauta argo は、ギリシャ神話に出てくるイアソンの船に由来します。イアソン王子は、王位を得るため、黒海東岸のコルキス王国にあるという『黄金の羊毛』を持ち帰らねばなりませんでした。イアソンは、ギリシア一の船大工アルゴスに巨大船アルゴ号を建造させます。そして、勇士ヘラクレス、名医アスクレピオス、琴の名手アルフェウス、アキレスの父ベレウスなどの英雄豪傑とともに出帆し、苦難の末に黄金の羊毛を手に入れて故国に凱旋しました。
 
リンドバーグ女史は、著書に次のように書いています。
 
貝は実際は、子供のための揺籃であって、母のたこぶねはこれを抱えて海の表面に浮かび上がり、そこで卵が孵(かえ)って、子供たちは泳ぎ去り、母のたこぶねは貝を捨てて新しい生活を始める。
 
   本に書いてあることによれば、この貝の名前(Argonauta)
   は黄金の羊毛を探しに行ったイアソンの船から取ったもの
   で、船乗りにとってこの貝は晴天と順風の印になっている。  
   我々は、中年になって、牡蠣(かき)の状態を脱した時、
   貝を離れて大海に向ったたこぶねの自由を期待していいの
   だろうか。
  
   人生の後半が、我々に晴天と順風を約束するとは思えない。
   我々中年のものにとって、どんな黄金の羊毛があるのだろ
   うか。
 
女史は、今から50年以上も前に、子育てを終えた後の男女の生き方、夫婦のあり方というテーマについて思いをめぐらせていたのです。
 
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男女の関係、あるいは頼り合う関係ではなく、一人の人間と別な一人の人間の、二つの孤独が触れ合う関係であると言い、そのためには、女は自分で一人立ちし、男性はそれまで無視してきた、仕事以外の人間的ものに関心を示しながら、それぞれが自足した一つの世界にならなければならないと言います。
 
そして、二つの孤独が触れ合う関係とは、抽象的で普遍的なものの海に漂いながら、惹(ひ)きつけ合うと同時に離れ、離されるとともに一つになる、断続的な関係であると述べています。
 
【備考】
下記に関係レポートがあります。
 → http://washimo-web.jp/Report/Mag-Kokoto.htm
 → http://washimo-web.jp/Report/Mag-MoonShell.htm
 → http://washimo-web..jp/Report/Mag-Hinodegai.htm
 

2006.07.19
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