レポート  ・田の神さあ   
− 田の神さあ −
鹿児島の田んぼのあぜみちを歩いていると、「田の神さあ(タノカンサア)」とよばれる石像をよく見かけます。田の神は、その名の示す通り田んぼを守り、米作りの豊作をもたらす農業神です。稲作のある日本全国の各地で信仰され伝承されていますが、それが石像として田んぼのあぜなどにあるのは、鹿児島を中心とした旧薩摩藩領(鹿児島県本土および宮崎県南部)に限られます。現在、約2000体の田の神が確認されていると言われています。
 

田の神の起源

最も古いとされる田の神像は鹿児島県さつま町紫尾のもので、江戸時代中期の宝永2年(1705)の年号が刻まれています。田んぼのあぜ道などに田の神像をたてる風習は、五穀豊穣を願って農民たちの側から自然発生的に起こった信仰なのでしょうか、それとも薩摩藩の食糧増産政策の一環として始まった風習なのでしょうか。
 
いずれにしても、田の神は、年に一度「田の神舞(タノカンメ)」や「田の神講(タノカンコ)」、あるいは「田の神戻し」などのお祭りをして感謝する以外は、朝夕取り立ててうやうやしく祟(あがめ)る神様では決してなかったのです。農村のそこいら付近のあぜ道に立っていて、ただ田んぼと農作業の日常を見守り続けてきた、とても庶民的な神様です。
 

色々な形の田の神

田の神像の形には、様々な形があって実に変化に富んでいます。初期の頃は地蔵像や仏像、神像の姿でしたが、その後は持ち物や表情も農民の姿を表わすのものが多く作られるようになりました。最古のものとされる鶴田町紫尾のものや、2番目に古いと言われる鹿児島県入来町中組のもの(宝永8年(1711))は、いずれも地蔵型の田の神像です(※ 2003年に、霧島市横川町上ノ紫尾田で正保元年(1644年)の年号が刻まれた田の神像(神官型)が見つかっています)。
 
霧島山の麓に位置する宮崎県えびの市内には、衣冠束帯の服装で手にはシャクを持ち、神前に座るような姿をした神官型の田の神像が多く現存するようです。享保元年(1716)あたりから数年にわたって相次いだ霧島山の噴火は、農作物に多大な災害を与えたといわれています。霧島山の噴火をやめさせ、稲作の豊作を願うための「よりどころの像」として神官型の田の神像が作られたといわれています。
 
最も多いのが農民型の田の神像です。頭に甑(こしき)のシキ(わら製の編み物)を被り、右手にメシゲ(しゃもじ)を持ってユーモラスに踊る姿の田の神さあ。これが典型的な農民型の田の神像です。鹿児島県加治木町日木山里の田の神(1830〜1843年(天保年間))をご覧下さい。今にも踊り出しそうな所作(しょさ)は、田の神舞(タノカンメ)のひとこまでしょう。ユーモラスな笑顔の目、鼻、口がとても表情豊かです。
 
◆◇『鹿児島県加治木町日木山里の田の神』
http://washimo-web.jp/Trip/Tanokami/Tanokami-1.htm
 

田の神様にまつわる伝統行事

 
『田の神舞(タノカンメ)』
例えば、鹿児島県高尾野町の紫尾神社と松ヶ野公民館で踊られる田の神舞は、五穀豊穣に感謝し、田の神に餅をついて供えるまでをユーモラスに演じる踊りです。 奇麗な若い嫁が大きな餅をつきあげるさまを踊り、三吉という道化役が面白おかしく踊ります。
→ http://www2a.biglobe.ne.jp/~uchi_a/bunka/geinou/tanokami.html
 
『田の神講(タノカンコ)』
近所の家々が集まって農業のことについて話し合いをすると共に、田の神様に五穀豊穣のお礼いをのべる行事です。当番になった家は、講に参加している家々から米を集め、餅をつき、ごちそうを用意します。ついた餅を稲わらで作った「つと(筒)」に餅を入れ、田の神さあの肩にかけてやり、神酒をささげて祝います。
 
『田の神戻し(タノカンモドシ)』
鹿児島県薩摩川内市藺牟田地区に伝わる『田の神戻し』は、持ち回りで1年間預かった田の神さあに絵の具で化粧をほどこし、つぎの家庭に「引っ越し」させる行事です。江戸時代末から伝わっていると言われ、ヤマブキ、山桜、ツツジなどで飾った花かごで運ぶのが慣わしです。道中、菜の花やレンゲの咲きほこる畑や水田で、軽妙な踊りが披露されます。
→ http://www.d1.dion.ne.jp/~msp/turezure-01apil.html
→ http://washimo-web.jp/Trip/TanokamiModoshi/tanokamimodoshi.htm
 
【お薦めサイト】

レポート  ・オットイ田の神
旅行記  ・えびの市の田の神(1) − 宮崎県えびの市
旅行記  ・えびの市の田の神(2) − 宮崎県えびの市


 2003.12.17
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