レポート  ・食の安全を考える   
HACCP 衛生管理と生産管理 ブリの養殖
− ブリの養殖 − 食の安全を考える(3) −
宮崎県や岡山県の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが発生し、深刻な事態になっています。天然の環境下であれば、免疫力の弱い個体や感染した個体は自然淘汰される(死ぬ)ことによって蔓延が防げるということがあるでしょう。
 
しかし、人為的に管理され、しかもおびただしい数で集団飼育されている環境下では、一個の個体の感染が由々しき結果を生むということになるでしょう。従って、感染ルートの特定と感染を未然に防ぐための万全の対策が求めれると思います。
 
鹿児島県の最北西端に位置する出水郡長島町は、天草を望む雲仙天草国立公園の一角にあって、養殖ブリ(はまち)の水揚げ高日本一を誇る島です。正月用のブリの出荷が続く昨年(2006年)の年の瀬にこの町を訪ねたのですが、思いかけずも、ブリ養殖場で行われている食の安全の取り組みについて知る小旅行になりました。
 
             ***
 
ブリの養殖は、稚魚であるモジャコの採捕から始まります。モジャコは、人工種苗生産技術が未開発のため、全て天然魚に依存していて、毎年5月頃、東シナ海や太平洋の沖まで出かけていって、流れ藻に乗って泳いでいるところを、約5mmの目合いの網で藻ごとすくいとるのだそうです。モジャコの採捕には特別の許可が必要で、乱獲を防ぐため水産庁が生産計画を決め、漁協はその割り当てに応じて採捕船の数を決めています。
 
採捕した1g にも満たないモジャコを、3年かけて5〜6kgの親魚に育て上げます。モジュコは、仲間どうしの共食いをふせぐため、体の大きさによってより分けられ、毎日5〜6回、魚肉のミンチで餌付けされます。
 
9月ごろになって大きさが約600gになると、大きなイケスに移され、餌は栄養たっぷりのモイストペレットに変わります。モイストペレットは、生のイワシなどのミンチにビタミンや魚粉、穀物などの配合飼料を混ぜて練り上げ、粒にしたものです。
 
長島町の東(あずま)町漁協は、160人の漁師が2,170基のイケスで、年間14,000トンのブリを生産していますが、2005年に漁協オリジナルの飼料(餌)を開発し、ブリ品質の統一化が図られると共に、餌は東町漁協が独自に定めた『ブリ養殖管理基準書』で厳しく管理され、飼料の安全性が図られているそうです。
 
水温・酸素量・水質・底質など、漁場環境が定期的にモニタリングされ、漁場の安全性を確認するとともに、環境の変化にいちはやく対応できるような準備体制がとられ、養鶏場の場合と同様、一匹でも発病すると魚病として問題になるので、常時診断を行う3名の技術員と治療薬を取り扱う1名の薬剤師が働いています。
 
抗菌剤・抗生物質の使用に当たっては人体用医薬と同様に投薬指示を受けるシステムが取られ、適正投薬の徹底管理がなされているそうです。漁協でカルテを作って検査を行い、病気が確定したら、どんな薬が良いかを指示します。カルテには、組合員の名前、イケスの登録番号、魚数、成長段階のほか、投薬期間、指示者、担当者などが細かく書かれ、保管されるそうです。
 
生産者自らが養殖日誌に記録した飼育情報を、漁協で蓄積しておくトレーサビリティーシステムが構築されており、消費者は自分が買ったブリが、どこで誰によって育てられ、どんな餌を食べ、どういう投薬が行われたのかを確認することができるようになっています。
 
内臓や頭を取って三枚下ろしにするブリ加工工場は、HACCP(ハサップ)の認証を得ていて、長島町の養殖ブリは、アメリカとEU諸国へ輸出されています。養殖場の近辺で海藻を生やして過剰なチッソ・リンを回収する取り組みや、海を汚さないために洗剤ではなく天然石けんを使用する取り組みなど、安心、安全なブリを生み出すための環境保全の取り組みもなされています。
 
              ***
 
自然の摂理の働かないような人為的管理下でおびただしい数の生き物を集団で飼育することは爆弾を抱えているようなものです。養殖場の漁場環境が一度汚されたらどうでしょう、一度魚病が発生したらどうでしょう、一瞬でブランドイメージが地に落ち、企業崩壊の危機にさらされるのは、養殖場とて同じです。
 
ブリ養殖場で、こまめな衛生管理や環境保全、情報公開などの取り組みがなされているのは、消費者に安全な食材を届けるということと同時に、危機管理(リスク・マネジメント)に狙いがあることは言うまでもありません。東町漁協の皆様には、継続的な取り組みをされ、より安心で安全な、そして美味しいブリを供給して欲しいと思います。
 
− 用語 −
【トレーサビリティーシステム】
= 『追跡可能性』と訳され、販売されている食品が、”いつ、どこで、どのように”生産され流通されたかについて、消費者がいつでも知ることができるしくみのこと。例えば、商品に貼られている番号を、メーカーのホームページから入力するとその商品の製造履歴の追跡ができるようになっている。
 
【HACCP(ハサップ)】 = 『危害分析重要管理点』と訳される。食品製造の全ての工程において、危害となる要因をあらかじめ分析して予測し、その危害を防止するための重要管理点を特定しておき、継続的に監視することによって、不良製品が製造されたり出荷させるのを未然に防ぐとともに、異常が認められた場合には、すぐに対策を取って速やかに問題解決を図ろうとする衛生管理システム。
 
【参考】
このレポートを書くに当たって、東町漁協のホームページを参考にしました。
・鹿児島県東町漁協 → http://www.azuma.or.jp/
 

2007.01.17 
あなたは累計
人目の訪問者です。
 − Copyright(C) WaShimo All Rights Reserved. −