私と小鳥と鈴と
私が兩手をひろげても、
お空をちつとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面(じべた)を速く走れない。
私がからだをゆすつても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに、
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがつて、みんないい。
|
知らない小母さん
ひとりで杉垣(すぎがき)
のぞいてゐたら、
知らない小母さん
垣(かき)の外通つた。
小母さんつて呼んだら
知つてるよに笑つた、
私が笑つたら
もつともつと笑つた。
知らない小母さん、
いい小母さんだな、
花の咲いた柘榴(ざくろ)に
かくれて行つたよ。
|
達磨おくり
白勝った、
白勝った。
揃(そろ)つて手をあげ
「ばんざあい」
赤組の方見て
「ばんざあい」
だまつてる
赤組よ、
秋のお昼の
日の光り、
土によごれて、ころがつて、
赤いだるまが照られてる。
も一つと
先生が云ふので
「ばんざあい。」
すこし小声になりました。
|
わらい
それはきれいな薔薇いろで、
芥子(けし)つぶよりか
ちひさくて、
こぼれて土に落ちたとき、
ぱっと花火が
はじけるやうに、
おほきな花がひらくのよ。
もしも泪(なみだ)が
こぼれるやうに、
こんな笑ひがこぼれたら、
どんなに、どんなに、
きれいでせう。 |
雪
誰も知らない野の果で
青い小鳥が死にました
さむいさむいくれ方に
そのなきがらを埋めよとて
お空は雪を撒(ま)きました
ふかくふかく音もなく
人は知らねど人里の
家もおともにたちました
しろいしろい被衣(かつぎ)着て
やがてほのぼのあくる朝
空はみごとに晴れました
あをくあをくうつくしく
小さいきれいなたましひの
神さまのお國へゆくみちを
ひろくひろくあけようと
|
鯨法會
鯨法會(ほうえ)は春のくれ、
海に飛魚採(と)れるころ。
濱のお寺で鳴る鐘が、
ゆれて水面(みのも)を
わたるとき、
村の漁夫(りょうし)が
羽織着て、
濱のお寺へいそぐとき、
沖で鯨の子がひとり、
その鳴る鐘をききながら、
死んだお父さま、お母さまを
こひし、こひしと
泣いてます。
海のおもてを、鐘の音は、
海のどこまで、ひびくやら。
|