旅行記  ・金子みすゞを訪ねて(1) − その作品から   


金子みすゞを訪ねて(1) 金子みすゞを訪ねて(2) 金子みすゞを訪ねて(3)

  
                  
    


大正12年(1923)5月3日(20)
提供:『金子みすヾ著作保存会』
明治36年(1903年)4月11日、山口県長門市仙崎生まれ、郡立大津高女卒業、20歳のころ下関に移り住み童謡を書き始める。雑誌「童謡」などに投稿、西条八十から「若き童謡詩人の中の巨星」と激賞され、一躍当時の童謡詩人たちの羨望の的となるが、昭和5年(1930年)3月10日、26歳の若さで自らの命を絶ち、幻の童謡詩人と言われた。児童文学者 矢崎節夫氏の熱意により、昭和57年(1982年)、半世紀もの間埋もれていた512編の遺稿が見出され、注目をあびる。自然や小さないきものたちの喜びや悲しみを深く温かな感性で見つめてつづった彼女の数々の詩は、多くの人に感動を与え続けている。

 
 
   私と小鳥と鈴と
 
   私が兩手をひろげても、
   お空をちつとも飛べないが、
   飛べる小鳥は私のやうに、
   地面(じべた)を速く走れない。
 
   私がからだをゆすつても、
   きれいな音は出ないけど、
   あの鳴る鈴は私のやうに、
   たくさんな唄は知らないよ。

   鈴と、小鳥と、それから私、
   みんなちがつて、みんないい。

     
 
   知らない小母さん
 
   ひとりで杉垣(すぎがき)
   のぞいてゐたら、
   知らない小母さん
   垣(かき)の外通つた。
 
   小母さんつて呼んだら
   知つてるよに笑つた、
   私が笑つたら
   もつともつと笑つた。

   知らない小母さん、
   いい小母さんだな、
   花の咲いた柘榴(ざくろ)に
   かくれて行つたよ。
 
  
   達磨おくり

   白勝った、
   白勝った。
   揃(そろ)つて手をあげ
   「ばんざあい」
   赤組の方見て
   「ばんざあい」

   だまつてる
   赤組よ、
   秋のお昼の
   日の光り、
   土によごれて、ころがつて、
   赤いだるまが照られてる。

   も一つと
   先生が云ふので
   「ばんざあい。」
   すこし小声になりました。

 
 
   わらい

   それはきれいな薔薇いろで、
   芥子(けし)つぶよりか
   ちひさくて、

   こぼれて土に落ちたとき、
   ぱっと花火が
   はじけるやうに、
   おほきな花がひらくのよ。

   もしも泪(なみだ)が
   こぼれるやうに、
   こんな笑ひがこぼれたら、

   どんなに、どんなに、
   きれいでせう。 
 
 
   
 
   誰も知らない野の果で
   青い小鳥が死にました
   さむいさむいくれ方に
 
   そのなきがらを埋めよとて
   お空は雪を撒(ま)きました
   ふかくふかく音もなく
 
   人は知らねど人里の
   家もおともにたちました
   しろいしろい被衣(かつぎ)着て
 
   やがてほのぼのあくる朝
   空はみごとに晴れました
   あをくあをくうつくしく
 
   小さいきれいなたましひの
   神さまのお國へゆくみちを
   ひろくひろくあけようと
 
   
  
   鯨法會
 
   鯨法會(ほうえ)は春のくれ、
   海に飛魚採(と)れるころ。
 
   濱のお寺で鳴る鐘が、
   ゆれて水面(みのも)を
   わたるとき、
 
   村の漁夫(りょうし)が
   羽織着て、
   濱のお寺へいそぐとき、
 
   沖で鯨の子がひとり、
   その鳴る鐘をききながら、
 
   死んだお父さま、お母さまを
   こひし、こひしと
   泣いてます。
 
   海のおもてを、鐘の音は、
   海のどこまで、ひびくやら。
 
 
 
  
   蜂と神さま
  
   蜂はお花のなかに、
   お花はお庭のなかに、
  
   お庭は土塀(どべい)のなかに、
   土塀は町のなかに、
  
   町は日本のなかに、
   日本は世界のなかに、
   世界は神さまのなかに。
  
   さうして、さうして、神さまは、
   小ちやな蜂のなかに。
 
 


 詩の出典は、『金子みすゞ全集』
(JULA出版局)より。

〔出典の詳細〕
(1)私と小鳥と鈴と−全集・V「さみしい王女」P145/(2)知らない小母さん−全集・V「さみしい王女」P233/(3)達磨おくり−全集・V「さみしい王女」P224/(4)わらひ−全集・U「空のかあさん」P154/(5)雪−全集・V「さみしい王女」P193/(6)鯨法會−全集・V「さみしい王女」P221/(7)蜂と神さま−全集・U「空のかあさん」P10

〔備 考〕
詩は、金子みすゞ著作保存会の了承を得て掲載しています。
転載する場合は、「金子みすゞ著作保存会」の許可を得て下さい。
  〒171-0033 東京都豊島区高田3-3-22JULA(ジュラ)出版局内 
  TEL 03-3200-7795 FAX 03-3200-7728
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