ひとり 〜ショートバージョン
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隠れ念仏を訪ねて − 鹿児島県
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かつてわが国でキリスト教が禁止されていた時代に、人々は「隠れキリシタン」となって信仰を守り抜いたことは多くの人に知られています。 しかし、同時代に九州南部の薩摩藩(鹿児島と宮崎の一部)と相良藩(熊本県の人吉地方)では、300年余りのあいだ一向宗(浄土真宗)の信仰が禁止されていて、人々が「隠れ念仏」と呼ばれる真宗門徒になって信仰を守り抜いたということはあまり知られていないのではないでしょうか。信者らは、藩の役人に見つからないよう、 雨や嵐など天候の悪い深夜を選び、人里離れた山中の「ガマ」と呼ばれる洞穴(ほらあな)に仏具を隠し、法座を開いて法悦(ほうえつ)の一夜を過ごしました。鹿児島市の郡山(こおりやま)町にある『花尾隠れ念仏洞』 と、同市吉田町にある『都迫(とんざこ)の念仏かくれ窟』などを訪ねました。                                    (旅した日 2005年01月)


花尾・隠れ念仏洞



        かくれ念仏洞


入口の高さ1.4m、横幅8m、奥行き4mの天然の洞穴(ほらあな)である。


浄土真宗禁制の藩政末期、この地方の信者たちは、藩の監視が厳しかったので、密かに仏壇をここに持ち込み、法悦の夜をおくり、また風雨の日や人なき時を選んで本尊を石谷彦左衛門の家に持ち出して、御座を開いたり、報恩講を勤めたりして、念仏の灯を燃やし、終わるとまたこの本尊をかくしたと言い伝えられている。明治初年ついて暴露して、多くの信者たちが罰せられたと言われている。



    (現地の案内板から転載)

作家・五木寛之さんは、著書『日本人のこころ 2』(講談社)で、「バス停留所には、異様な言葉(隠念仏前)が書かれていた。なにも事情を知らない人は、それを見るとびっくりするかも知れない」と。「隠念仏前」というバス停があります(写真下左)。写真下中の杉木立に中に念仏洞はあります。そびえる巨大な岩の下の方にある三角形の裂け目が念仏洞になっています(写真上の左右)。洞の天井は、大人が膝を折り、腰を曲げてやっと入れるくらいの高さです。
殉教の闇を鎮めて厳寒日 独楽
都迫(どんさこ)の念仏かくれ窟
      

薩摩のかくれ念仏、殉教(じゅんきょう)秘話『血は輝く』(佐々木教正著)に取りあげられている洞窟(どうくつ)である。薩摩藩が厳しい真宗禁止を行った頃(1550年頃以降)、藩の役人の目を逃れて、仏を拝んだり修行するために造られた洞窟であろう。入口は、断崖(だんがい)の中ほどにあり、外部からは所在がわかりにくくなっている。内部の構造は、よほど巧みに造られており、上部に向かって空気抜けの穴がある。奥に小さな室を設け、通路・位置などにいろいろ工夫がなされている。 (現地の案内板から転載)

比較的車の往来の多い国道から、階段(写真下右)を20m程度に登ったところに、入口(写真上右)があります。懐中電灯が入口に置いてありましたが、とてもとても中には入れそうになかったので入りませんでした。
涙石、萬次郎ケ岩
涙石(西本願寺鹿児島別院/写真右)

役人たちは、信者の疑いのある者を捕らえて、この石を抱かせて自白を迫ったと伝えられています。信者たちの苦しみの涙がそそがれた石という意味で涙石と呼ばれています。


「男子は割木(わりき)の上に座しめ、膝上に五・六拾斤の石を載せ、左右より短棒にて打擲(ちょうちゃく)致し、皮肉破れ、血流、脚骨砕・・・」(薩摩国諸記)とあります。




萬次郎ケ岩(写真下・左右)
時吉萬次郎翁は、一向宗のお役番として、各地の指導にあたり、「念仏の取次人」と尊称されました。翁は、常時藩の弾圧を受け、家族に多くの殉教(じゅんきょう)者を出しました。翁は、断崖にある岩屋(萬次郎ケ岩)に難を逃れ、そこから各地の念仏の取次ぎに行ったと言われています。
鹿児島市内の西本願寺鹿児島別院の庭先にある『涙石』(写真上右)とさつま町にある萬次郎ケ岩(写真下・左右)。五木寛之さんの著書に、「番役」という講(こう)のリーダ、本願寺(京都)とつなぎをつける「取次役」の話しがでてきます。時吉萬次郎もそうしたリーダー、取次役だったのでしょう。萬次郎ケ岩は、本HP制作者の自宅近くの山の中腹の鬱蒼(うっそう)とした雑木林の中にあります。
【用語】
御座(おざ)=浄土真宗で、説教をきくための集まり。
法座(ほうざ)=説法の行われる集会。
法悦(ほうえつ)=仏法を聞いたり信仰したりすることにより心に喜びを感ずること。
報恩講(ほうおんこう)=一宗の祖師の恩に報ずるため、その忌日に営む法会。
 レポート ・隠れ念仏
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