レポート  ・喜界地下ダムとオオゴマダラ   
− 喜界地下ダムとオオゴマダラ −
鹿児島から南へ約380km。奄美大島の東方 25kmに浮かぶ喜界島は、サトウキビ栽培を主幹産業とする、周囲が約50kmの小さな島です。その喜界島に総工費274億円近くを投じてつくられた地下ダムがあるというのは、ちょっとした感動ものでした。公共土木工事の意義と環境保全のための土木工事のあり方を示唆しているのです。
 
年間降水量がかなりの量ありながら、国土が狭く平坦なため貯水能力に乏しく、水資源問題に悩まされている国として知られているのがシンガポールです。国内水源だけでは必要な消費量をまかないきれないため、パイプラインを通してマレーシアから購入する一方、海水の淡水化や下水再利用の技術開発が進められています。     
 
喜界島も同様、小さな島の大半が隆起サンゴからなる平らな地形のため大きな河川がなく、 2,000mm以上の年間降水量がありながら、降った雨は貯水されることなく海へ流出してしまいます。
 
喜界島の場合は、多孔質で透水性のよいサンゴ石灰岩からなる厚さ20〜40mの表層部の下に、島尻層と呼ばれる不透水性の基盤があるため、その間に溜ったわずかな地下水を汲み上げて使っていましたが、特にサトウキビ栽培に水が必要となる6〜10月にかけて農業用水の確保が苦労の種でした。
 
そこで考え出されたのが、サンゴ石灰岩の表層部と不透水層の間にコンクリートの止水壁を築造して海に流出する地下水をせき止め、サンゴ石灰岩の空洞等に貯留する地下ダムの建設でした[1][2]。1992年(平成4年)着工、高さ35mの地下止水壁が全長2,435mにわたってコの字形に築造され、2003年(平成15年)総貯水容量 180万トン(180万立方メートル)の地下ダムが完成。総額273億8千万円の費用が投じられた土木工事でした。
 
実は、地下ダムが建造された湾頭厚地区には、喜界町の保護蝶であるオオゴマダラ(大胡麻斑)の生息地があったのです。オオゴマダラは喜界島を生息の北限とする、白黒のまだら模様が特徴的なチョウで、前翅長7cm前後、開長13cmの大きさは日本のチョウとしては最大級のものです[3]。ゆっくりと羽ばたきフワフワと滑空するような飛び方をし、”南の島の貴婦人”ともよばれています[4]。
 
参考図『喜界地下ダムとオオゴマダラ』を見る
 
オオゴマダラ(『蝶の図鑑(www.j-nature.jp)』)を見る
  
止水壁の施工を地上から行なうとオオゴマダラ生息地の環境を破壊するというので、生息地の部分は、わざわざ地下に全長 366mのトンネルを掘り、そのトンネル内から止水壁を施工するという、全国初の工法が取り入れられ、環境保全が図られたのです。
 
今日、地下ダムに貯留された水は、揚水機(ポンプ)で汲み上げられ、総延長45kmの送水路(パイプライン)によって、島全域のサトウキビ畑などへ送られ、受益面積は 1,620ha(受益戸数 870戸数)にのぼるそうです[5]。 サトウキビ栽培では以前は、ため池の貯水をタンクに汲み取りトラックで運んで散布する作業が要求されていましたが、パイプラインの敷設によりスプリンクラーによる散水が可能となりました。
 
また喜界島では、サトウキビ栽培における緩効性肥料の普及・定着、畜産の分野でのたい肥の使用による化学肥料の減量など、大事な地下水の水質を保全する取り組みもなされているそうです。
 
【参考サイト】
[1]喜界島テスト
[2]教育と農業農村
[3]オオゴマダラ - ウィキペディア
[4]【鹿児島県喜界町】喜界町のみどころ:保護蝶オオゴマダラ
[5]喜界島に地下ダム建設
 

2009.03.011
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