レポート | ・ことばの起源〜猿の毛づくろい、人のゴシップ |
− ことばの起源〜猿の毛づくろい、人のゴシップ −
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大分市と別府市の別府湾岸沿いの境界にある高崎山は、山中に生息する野生のニホンザルの群れが、麓の餌付け寄せ場に下りてきて、観光客は檻(おり)を隔てずに自然のニホンザルの姿を見ることができることで知られています。 その高崎山自然動物園を訪ねたのは、昨年(2010年)12月のことでした。園内では、サルがあちこちで長い時間をかけて毛づくろいをしていました。小一時間園内を見物している間じゅうずっと毛づくろいをしていたサルもたくさんいたぐらいで、そんなに捕りきれないほど、しらみやノミがいるのだろうか、毛づくろいって、一体何をしているのだろうかという疑問が沸いてきました。 そこで、旅行から帰って、”毛づくろい”でネット検索してみました。そして、遭遇したのが、『ことばの起源〜猿の毛づくろい、人のゴシップ』(ロビン・ダンバー・著、松浦俊輔+服部清美・訳、青土社)という、とても知的刺激に満ちた人文科学の本でした。以下に、その内容を要約してレポートします。 今、カフェバーかどこかに入って、しばらく周囲の人々がどんな話をしているか聞いてみたとしょう。彼らの会話のおよそ三分の二は、誰と誰が何をして、それは良いことであるとか悪いことであるとか、今誰に人気があって、誰はもうだめだとか、恋人や子供や友達が直面している面倒な社会的状況を解決するにはどうしたらよいかといった、社会的意味を持つことがらに費やされているはずである。 我々は、互いに関する『ゴシップ』(うわさ話)にとりつかれているらしい。我々の思考の構造からして、そうなるようになっているらしい。言語は、我々を共同体の一員にしてくれ、他のどの種もできないやり方で、知識や経験を共有できる機会を与えてくれる。我々は、どうしてこのたぐいまれな能力を持つようになったのだろう。 サルなどが毎日何時間も費やして、互いの毛の奥から、はがれた皮膚片やからまったいがなどを取り除いたりしているのは、衛生上の必要によるよりも、そうやって毛づくろいされると気持ちがよいらしい。毛づくろいは、脳内麻薬であるエンドルフィンの生成を促し、穏やかな麻酔作用が生れるらしいのです。 しかし、毛づくろいは、相手かまわず行っているわけではなく、深い関係を持っているどうしが定期的に相互に行う行為であり、友情と忠誠の証(あかし)らしいのです。
霊長類(サル類や類人猿およびヒトなど)は、捕食者への相互防衛として、群れて生活するようになりました。なぜなら、群れをなすとさまざまな面で捕食される危険度を減少できるからです。しかし、個体どうしの結びつきが密な群れの生活は、独特のストレスを生むことになります。捕食者への恐怖が群れに集結する求心力を生む一方で、過密状態は一人で穏やかに暮らしたいという遠心力を生むのです。 群れを維持するにはうまくそのバランスを取らなければなりません。そこで、霊長類は個体それぞれのストレスを回避し、何とか良好な個体間関係を維持するために毛づくろいをするようになりました。そして、毛づくろいの頻度は、群れの規模に比例して増加します。 一方、ダンバーは、霊長類の大脳新皮質の大きさと群れの規模との間には、はっきりした相関関係があることに気づきました。個体数が最大で50〜55のひひやチンパンジーの群れでは、一日のおよそ10〜20%の時間を仲間との毛づくろいに費やすそうです。人間の大脳新皮質の大きさから類推すると、人間の群れの大きさは、およそ 150人になり、毛づくろいに必要な時間は、1日のおよそ40%になるそうです。 これでは、食べることと毛づくろい以外、ほとんど何もできないことになります。それは大変ということで、ヒトはもっと効率のよい『毛づくろい』の手段として言葉を口ごもるようになりました。ゴシップ(うわさ話)が毛づくろいと同じ機能を果たすなら、ヒトは話すことによって同時に複数の他人と『毛づくろい』することでき、何倍も効率的なのです。 ”集団が規模を大きくして『毛づくろい』ができなくなったとき、それに代わるコミュニケーション手段として生まれたのが人間のゴシップ(=言語)だった。” ダンバーは、言語は、共同体の狩猟などの行為をより効率的に行えるために進化したという、従来受け入れられてきた見解をくつがえし、『言語は我々にうわさ話(ゴシップ)をさせるために進化したのだ』という見解を提唱したのです。 【備考】 原題/GROOMING,GOSSIP AND THE EVOLUTION OF LANGUAGE・著者/ロビン・ダンバー(ROBIN DUNBAR)/オックスフォード大学で哲学と心理学を専攻、ブリストル大学で心理学の博士号取得、心の進化論を専門として、現在、リバプール大学教授で心理学を担当。 【参考】 下記の旅行記が参考になります。 ■旅行記 ・高崎山自然動物園 − 大分県大分市 |
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2011.01.17 | ||||
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