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♪花の歌(ランゲ) |
ぴあんの部屋 |
嬉野温泉 〜 山頭火を歩く(6)− 佐賀県嬉野市 |
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佐賀県の南西部に位置する嬉野市は人口3万人弱の市です。嬉野川に沿って開けた嬉野温泉は、1500年の歴史を持ち、江戸時代長崎街道の嬉野宿として栄え、美肌に効果がある重曹泉で入浴した後につるつる感があることから「日本三大美肌の湯」の一つとされています。また、嬉野は、江戸時代慶安年間、吉村新兵衛によって栽培が始められたという茶おの産地としても知られています。『嬉野はうれしいところです、湯どころ茶どころ、孤独の旅人が草鞋をぬぐによいところです、私も出来ることなら、こんなところに落ちつきたいと思ひます、云々』。種田山頭火は、そんな嬉野に庵を結ぼうと考えたときもあったようです。(旅した日 2008年05月) |
嬉野 |
立岩展望台から見た嬉野の眺め。写真の上方が、嬉野川沿いに開けた嬉野温泉。その周囲では、豊かな自然を生かして名産の嬉野茶が栽培されています。茶畑は、ちょうど茶摘の時期に差し掛かっていました。 |
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嬉野温泉 |
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井手酒造 |
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小入無間、大絶方所、自由自在なところが雲水の徳だ。 今日は一室一人で一燈を独占して読書した(一鉢までは与へられないけれど)。 先日来同宿の坊主二人、一は常識々々と口癖のやうにいふ非常識な男、他は文盲の好々爺。 こゝの主人公は苦労人といふよりも磨かれた人間だ、角力取、遊人、世話役、親方、等々の境地をくゞつてきて本来の自己を造りあげた人だ、強くて親切だ、大胆であつて、しかも細心を失はない、木賃宿は妻君の内職で、彼は興行に関係してゐる、話す事も行ふ事も平々凡々の要領を得てゐる。 彼からいろ/\の事を聞いた、相撲協会内部の事、茶の事、女の事。…… 嬉野茶の声価は日本的(宇治に次ぐ)、玉露は百年以上の茶園からでないと出来ないさうである、茶は水による、水は小川の流れがよいとか、茶の甘味は茶そのものから出るのでなくて、茶の樹を蔽ふ藁のしづくがしみこんでゐるからだといふ、上等の茶は、ぱつと開いた葉、それも上から二番目位のがよいさうである。 マヲトコツクル(勇作)の情話も愉快だつた。 |
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玉姫神社 |
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三月十四日 曇、時々寒い雨が降つた、行程五里、また好きな嬉野温泉、筑後屋、おちついた宿だ(三〇・上) 此宿の主人は顔役だ、話せる人物である。友に近状を述べて、―― 嬉野はうれしいところです、湯どころ茶どころ、孤独の旅人が草鞋をぬぐによいところです、 私も出来ることなら、こんなところに落ちつきたいと思ひます、云々。 楽湯――遊於湯――何物にも囚へられないで悠々と手足を伸ばした気分。 とにかく、入湯は趣味だ、身心の保養だ。
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瑞光寺 |
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三月廿日 曇、小雪、また滞在してしまつた、それでよか/\。 老遍路さんと別離の酒を酌む、彼も孤独で酒好き、私も御同様だ、下物は嬉野温泉独特の湯豆腐(温泉の湯で煮るのである、汁が牛乳のやうになる、あつさりしてゐてうまい)、これがホントウのユドウフだ! 夜は瑞光寺(臨済宗南禅寺派の巨刹)拝登、彼岸会説教を聴聞する、悔ゐなかつた。―― 応無所住而生其心(金剛経) たゝずむなゆくなもどるなゐずはるな ねるなおきるなしるもしらぬも(沢庵) 先日来の句を思ひだして書いておかう。―― 湯壺から桜ふくらんだ ゆつくり湯に浸り沈丁花 寒い夜の御灯またゝく |
※ 行乞記(種田山頭火)は、青空文庫の『行乞記(二)』を転載しました。データはつぎの通り。 底本:「山頭火全集 第三巻」春陽堂書店 1986(昭和61)年5月25日第1刷発行 1989(平成元)年3月20日第4刷 入力:さくらんぼ 校正:門田裕志、小林繁雄 2008年3月20日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。 入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 |
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