♪ジムノペディー第1番
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旅行記 ・藤沢周平文学の面影を訪ねて − 山形県鶴岡市  2010.03
 城下町・鶴岡
藤沢周平の作品を彷彿とさせる鶴ヶ岡城跡(写真上)
藤沢周平作品ゆかりの案内板『花のあと』(写真上)
鶴ヶ岡城(つるがおかじょう)
江戸時代、庄内藩の藩庁であった鶴ヶ岡城は、本丸の東北隅と二の丸の南西隅に、それぞれ2層2階の隅櫓が建てられていた平城でした。鶴岡市街地のほぼ中心に位置し、現在は、本丸・二の丸跡周辺は『鶴岡公園』となっており、桜の名所として日本さくら名所100選に選ばれています。
 本丸御殿・御玄関跡の雰囲気(写真上)
『海坂藩』(うなさかはん)
山形県鶴岡市出身の作家、藤沢周平(1927〜1997年)さんは、江戸時代を舞台に、庶民や下級武士の哀歓を描いた時代小説作品を多く残していますが、物語の舞台としてしばしば登場するのが、架空の藩『海坂藩』です。この藩のモデルについての藤沢さんの明言はなかったものの、藩や城下町、領国の風土の描写は、藤沢さんの出身地を治めた庄内藩とその城下町鶴岡がモチーフになっていると考えられています(1)。藤沢文学の面影を鶴岡に訪ねました。
  
藤沢周平作品に登場する城下町・鶴岡の面影。鶴岡市内には藤沢作品ゆかりの地18カ所に、案内板が設置され、訪れる人を小説の舞台へと誘っています。
鶴ヶ岡城本丸御殿・御玄関跡(写真上)
 
短編時代小説・『花のあと』
鶴ヶ岡城は、藤沢周平の短編時代小説『花のあと』の舞台にもなった城です。娘ざかりを剣の道に生きた武家の娘以登は、身分は低いが藩随一の剣士・江口孫四郎との手合わせを父に懇願します。竹刀を打ち込む中で孫四郎に胸を焦がしている自分がいることに気がつく以登。しかし、それはかなわぬ恋でした。家が定めた許婚がいる以登は孫四郎への想いをきっぱり断ち切ります。それから数ヵ月後、孫四郎が、藩の重役・藤井勘解由(かげゆ)の卑劣な罠にかかって自害したのです。それが真実なら、藤井勘解由を生かしてはおけぬ、と以登は思います。江戸から帰国した許婚(いいなずけ)・片桐才助の手を借りて事件の真相を知った以登は、正義と、ほどよい距離をとりながらも今なお自分の中に残る孫四郎への思いのために剣を取るのでした(2).
田麦俣(たむぎまた)の民家(致道博物館内)(写真上)
藤沢周平の作品を彷彿とさせる鶴ヶ岡城跡(写真上)
二の丸大手門跡(写真上)
長編時代小説・『蝉しぐれ』
舞台は『海坂藩』。朝、組屋敷の裏を流れる小川で蛇にかまれた隣家の娘『お福』をすくう場面からはじまる、藤沢周平の最高傑作の呼び声が高い青春時代長編小説『蝉しぐれ』(3)。淡い恋、友情、悲運、忍耐。海坂藩の少年藩士が成長していく姿を、詩情豊かに描いています。どのページをめくっても、藤沢周平さんの明度の高い描写が冴え、物語は小気味よく展開します。美しく、懐かしい日本の原風景が随所に描かれていて、日本を感じずにはおれない作品です。
藤沢周平作品ゆかりの案内板『蝉しぐれ』(写真上)
 五間川(ごけんがわ)
〜丘というには幅が膨大な大地が、町の西方にひろがっていて、その緩慢な傾斜の途中が足軽組屋敷が密集している町に入り、そこから七万石海坂藩の城下町がひろがっている。 城は、町の真中を貫いて流れる五間川の西岸にあって、美しい五層の天守閣が町の四方から眺められる(4)                『暗殺の年輪』から。
   
五間川は、海坂藩で重要な交通手段として活用されていた川で鶴岡市内を流れる内川(写真下)がモデル。『蝉しぐれ』では、文四郎が今は藩主の側室となったお福とその幼子を刺客から守るため、ひそかに連れだし暗闇の中を舟で下って逃がした川でした。
五間川のモデルとされる『内川』(うちかわ)と三雪橋(写真上)
鶴岡市立『藤沢周平記念館』(写真上)
庄内藩校 致道館(ちどうかん)
論語の一節『君子学ンデ以テソノ道ヲ致ス』に由来して名付けられた『致道館』(写真右・下)は、庄内藩第9代藩主・酒井忠徳(ただあり)公が、退廃した士風を刷新して藩政の振興を図るために文化2年(1805年)に創設した学校です。諸藩が幕府の方針に従い朱子学を藩学とするなかで、庄内藩は荻生徂徠が提唱する徂徠学(古代中国の古典を読み解く方法論としての古文辞学(6))を教学としました。
鶴岡市立『藤沢周平記念館』
藤沢周平の作品世界と作家の生涯を紹介し、藤沢文学に親しんでもらうこと、そして、鶴岡・庄内の豊かな自然と歴史ある文化に触れながら、藤沢周平の作品をさらに味わい深めてもらうことを実現するために、2010年4月29日、鶴岡公園内に『藤沢周平記念館』(写真左)がオープンし、藤沢文学に関する資料の収集・保存、藤沢文学に関する展示の企画・実施、鶴岡・庄内の歴史や文化に関する道案内、読書サロン、セミナー・イベントなどの活動が行われています(5) 
200年余の風雪に耐えて建つ致道館(写真上・下
     
  【参考図書及びサイト】
  (1) フリー百科事典『ウィキペディア』、海坂藩のページ。 
  (2) 藤沢周平・著『花のあと』(文春文庫、1989年3月)
  (3) 藤沢周平・著『蝉しぐれ』(文春文庫、1991年7月)
  (4) 藤沢周平・著『暗殺の年輪』(文春文庫、1978年2月) 
  (5) 鶴岡市立藤沢周平記念館 公式ホームページ
  (6) フリー百科事典『ウィキペディア』、荻生徂徠のページ。
 
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