♪秋の歌(チャイコフスキー)
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小鹿田(おんた)焼を訪ねて − 大分県日田市
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九州の陶器といえば、佐賀県の有田焼や伊万里焼、唐津焼などが有名ですが、福岡県の筑豊や筑後地方、大分県日田市には、上野焼(あがのやき)、小石原(こいしわらやき)、小鹿田焼(おんたやき)の窯場があります。秋たけなわの快晴の日、大分県日田市の小鹿田焼を訪ねました。JR日田駅前のバスセンターから中型の乗合バスに乗ると、花月(はなつき)川沿いをさかのぼって40分で日田市源栄(もとえ)町皿山に着きます。山峡の谷間(たにあい)に10軒の小鹿田焼の窯元が肩を寄せ合うように小さな集落を形成しています。バスを降りると、「ギーッ、ドスン」という音が聞こえてきます。水力を利用して、唐臼(からうす)で陶土を粉砕する音です。それぞれの窯元は、自宅の玄関の土間や縁側を展示所にして、自家のやきものを思い思いに展示しています。庭先には、器の素地(きじ)が天日(てんぴ)干してあります。戸は開けっ放しのままで、展示所はたいがいが無人です。「御用の方は、ベルを押して下さい」とあります。やきものを遠慮なしに気ままに見られるのが有難いです。やきものを見たり写真を撮ったりして2時間ほど過ごし、また乗合バスで帰りました。小鹿田の素朴なやきものに触れられた一日でした。
                                                            (旅した日 2003年10月)


山間の窯場 小鹿田焼の窯場は、山峡の谷間に10軒の窯元が肩を寄せ合うように小さな集落を形成しています。


唐臼の音 鹿威(ししおど)しの要領で陶土を粉砕する、「ギーッ、ドスン」という唐臼(からうす)の音は、小鹿田の暮らしのリズムを300年間刻みつづけてきた音です(写真左、右上)。自家のやきものが思い思いに展示されています(写真右下)。


民陶の小鹿田焼 小鹿田は、日曜雑器すなわち民陶の窯場です。1931年(昭和6)に、民芸運動の指導者・柳宗悦(やなぎむねよし)がこの地を訪れて、紀行文『日田の皿山』を発表して、世に知られるようになりました。また、1954年(昭和29)には、英国人バーナード・リーチがここで、制作し全国的にその名が広まりました。小鹿田焼の味は、手作りの素朴さと 「実用の美」にあります。代表的なやきものとして、櫛目飛び鉋皿〔くしめとびがんなさら〕(写真上左)、打ち刷毛目皿〔うちはけめさら〕(写真上右)、流し描き花器〔ながしがきかき〕(写真下左)、飛び鉋酒器〔とびがんなしゅき〕(写真下右)などがあります。いわゆる「作家」はおらず、10軒の窯元で組合をつくり、品物には個人名や窯名を表わす判は押してありません。

小鹿田焼は、江戸時代の中期に、小石原(福岡県)の陶工を招いて開窯したといわれ、基本的な技法は小石原焼と同じです。しかし、小鹿田では、現在でも作陶の一切において、電気・ガス・機械の動力を使わず、昔ながらの手づくりの伝統が守られているのです。陶土は小鹿田の土のみを使い、川の水力を利用して唐臼で陶土を粉砕し、登り窯は薪(まき)で焚(た)き、むずかしいといわれる温度調節には温度計は使われず、ろくろは、蹴(け)ろくろです。昔ながらの製陶を守り続けている小鹿田窯は、1995年(平成7年)に国の重要無形文化財に指定され、翌年には唐臼の音が環境庁の「残したい日本の音風景100選」に選ばれました。そんな、小鹿田焼には素朴な味わいが感じられます。 技法は、飛び鉋(とびがんな)、刷毛目(はけめ)、流し描きが代表的です。



昔ながらの家内工業 10軒のうち5軒の窯元が共同窯(写真上左)を使っています。窯は電気やガスを使わない薪(まき)窯です。あちこちに薪置き場(写真上右)があります。小鹿田焼は、土づくりから手作業です。庭先には、水ひ作業(粘土を精製する作業)を行う作業場があり、器(うつわ)の素地(きじ)が天日干(てんぴほ)しされています(写真下右)。


【備考】
【蹴ろくろ(けろくろ)】
 「蹴(け)ろくろ」は足で蹴(け)って回転させるろくろ。
【飛び鉋(とびがんな)】
 ろくろの上に生乾きの素地(きじ)をおき、回転している素地に弾力性のある鉋(かんな)や箆(へら)をあてると、飛び飛びに素地の表面が削られることから、飛び鉋(とびかんな)と呼ばれる。踊り箆(おどりべら)、撥ね箆(はねべら)などとも呼ばれる。褐色の素地の表面に白い化粧土を掛け、その表面層を飛び鉋で削り取ると、白地に褐色の文様ができる。逆に素地の色が白く化粧土が黒い場合は、黒地に白い文様ができる。
【刷毛目(はけめ)】刷毛目とは陶器を装飾する技法の一つで、白泥土を刷毛でひと息に塗ったもの。


【参考】
・中島誠之助・中島由美・監修『やきものを楽しむ、上野焼・小石原焼・小鹿田焼』(2003年10月小学館発行)



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