♪サラバンド(バッハ)
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鉛温泉 藤三旅館 − 岩手県花巻市
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藤三(ふじさん)旅館は、花巻市街中心より約20kmの奥羽山脈中腹に位置する花巻南温泉峡 鉛温泉に唯一ある温泉宿の一軒家。宮沢賢治の童話『なめとこ山の熊』に『熊の胆ありという昔からの看板が掛かっている宿』として出てき、今はめずらしい湯治部がある旅館です。白猿が傷を癒したという伝説に由来する名物の『白猿の湯』は、珍しいことに、深さ125cmの湯船に立ったまま入ります。昭和27年(1952年)、田宮虎彦はこの旅館で短編小説『銀心中(しろがねしんじゅう)』を書きました。そういうことで、折角だから、遠野・花巻の一泊二日の旅の宿に選んだのが藤三旅館の湯治部でした。     (旅した日 2010年3月)
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ふじさんりょかん
藤三旅館
鉛温泉という名の由来については、小説『銀心中』(1)に、昔、ちかくに金が発見されたのを、当時の領主が鉛が出たとか、鉄がでたとかいったことによるとあります。鉛温泉は、藤三旅館が一軒だけの温泉です。藤三旅館は、『新日本百名湯』『日本秘湯を守る会』『日本温泉遺産』に選ばれた宿で、温泉は源泉を5本を有し、館内全5浴場すべて『源泉100%掛流し』の温泉旅館。1941年(昭和16年)に建てられた『千と千尋の神隠し』に登場する湯屋を思わせる木造3階建て・総けやきづくりの本館(写真左)は、歴史の風格を感じる建物です(2)。1952年(昭和27年)、田宮虎彦は、一カ月あまり逗留し、玄関うえ三階の部屋で『銀心中』を執筆しました。藤三旅館は、『旅館部』と『湯治部』に分かれています(写真下)。
  
  
湯治部
タイムスリップしたかのような風情と佇まいの中にある湯治部は、滞在型の癒しの温泉宿となっており、共同炊事場には、炊事に必要な道具が全て揃っていて、昔ながらの『湯治場・自炊旅館』を味わうことができます。また館内に売店があって、自炊に必要な食料品や日常雑貨、野菜からお土産まで豊富に取り揃えてあり、さながらスーパーのようです。
  
湯治部の玄関(写真左)と帳場(写真上)は、懐かしさの中に温かみが感じられます。
湯治部の客室

    
    
湯治部の客室は、『白猿の湯』へ行き来する廊下の両側に4.5〜6畳の和室が配置されています。当然、トイレと洗面は共同のものを使います。湯治部でも、二食付で単泊あるいは連泊ができます。『白猿の湯』の隣りに売店があって、そこからが客室になります。客室の入口には『白銀荘(しろがねそう)』と書いた額が掛かっていました(写真左)。小説『銀心中』のタイトルは、これに由来しているそうです。

私が泊まったのは、豊沢川側の和室6畳間でした(写真上)。先着順に川側の部屋があてがわれるようです。『室料+布団+テレビ+2食付+アメニティ+ゆかた+タオル+バスタオル付き』で、料理は『白猿コース膳・全10品』(写真左)と張り込んで、料金は、10,500円。入浴料および税込みですが、廊下に配膳される以外はセルフ式となります。
 
いかにも湯治宿らしく面白いのは、丹前や部屋暖房器具などはオプションで、丹前ファンヒーター(1台・灯油代別途)ともに、350円の別途料金が必要になります。
  
ビールは、館内の自動販売機で調達。川岸に積雪の残る豊沢川はライトアップされ幻想的な雰囲気を見せていましたし、料理も美味しかったですが、一人旅は食事のときが寂しいものです。下の写真は、明るいうちの豊沢川です。
      
       
白猿の湯
今から600年の昔。ここの温泉主である藤井家の遠祖が高倉山麓で木こりをしている際に、岩窟から出てきた一匹の白猿が、桂の木の根元から湧出する泉で手足の傷を癒しているのを見ました。これが温泉の湧出であることを知り、仮小屋を建て、一族が天然風呂として用いるようになったと伝えられています。その後、大衆の浴場とするべく1786年に長屋を建て温泉旅館として開業しました。以来、『白猿の湯』と呼ばれるようになりました。白猿を祀った神棚に由来書きがあります。浴室は、フロアレベルから地下へ2階ほど掘り下げたところに湯船があり、男女別に設けられたる階段から降りて行きます。
階段を下りたところに衝立で隠した脱衣場所があります。湯船から上を見上げると、開放感溢れる3階の高さの吹き抜けになっています。基本的には混浴ですが、実際には女性専用の時間帯が設けられています。お湯は上方から注ぎ込むのではなく、透き通った源泉100%のお湯が湯船のそこからこんこんと湧き出していて、深さ125cmの湯船に立ったままで入ります。また、渓流露天風呂『桂の湯』(写真右)は、豊沢川のせせらぎを間近にする野趣溢れたお風呂です。その他、半露天風呂『白糸の湯』、渓流展望風呂『河鹿の湯』『銀の湯』に入れます。
        
    
田宮虎彦・著『銀心中』 − あらすじ −
夫婦共稼ぎの理髪店を経営していた石川喜一と妻の佐喜枝のもとに、佐喜枝と2つ違いの従弟(喜一の姉の長男)の珠太郎が弟子入りして来ます。一年後、喜一が召集令を受けて出征。理髪店を託された若い妻とその従弟は、お互いをいつくしみ合うようになり、微妙な気持の中で理髪店を続けて行きますが、やがて珠太郎も徴兵検査を受け戦場へ。珠太郎を駅に見送った日からまもなく、夫喜一戦死の報が届きます。そして終戦。焼跡にできた理髪店で住み込みで働く佐喜枝のもとへ珠太郎が復員して来ました。見つめ合う二人の眼には涙が溢れ、二人は初めて結ばれます。バラック建ての理髪店が出来上がり、二人が一緒になって半年ばかりの頃、今度は、戦死したはずの喜一が帰って来たのでした。珠太郎は喜枝への想いと喜一への義理との板ばさみのなかで家出をします。善良な喜一は二人を憎むことも出来ません。苦痛の日々が続きます。珠太郎の面影をどうしても捨てきれない佐喜枝は、珠太郎が東北のしろがね温泉にいるという噂を耳にすると矢も楯もたまらず、雪深い温泉に出かけて行きます。珠太郎は、温泉宿や付近のダム工事事務所を日をきめて回る理髪師をしながら、佐喜枝に瓜二つの芸者梅子に傷心をいやしていたのでした。佐喜枝の姿を見た珠太郎は、『東京へ帰れ』と叫び馬そりに飛び乗って去ります。吹雪の中に彼の後を追う佐喜枝でしたが、崖下に死体で発見されます(1)
【参考にした図書・サイト】
(1)田宮虎彦『銀心中』(日本文学全集35、新潮社、1969年10月30日発行)
(2)
岩手・花巻 文士が愛した浪漫の湯宿 鉛温泉 藤三旅館(藤三旅館公式ホームページ)
   
   
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