一草庵－愛媛県松山市／旅行記

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旅行記　一草庵－愛媛県松山市　2020.02

一草庵(山頭火終焉地)

薩英戦争砲台跡

山口県防府市の地元で「大種田」といわれるほどの大地主の長男として生まれた種田山頭火でしたが、10歳のとき、母が夫の放蕩を苦に井戸に身投げして自殺、山頭火の人生に大きな影を落とします。父はあいかわらず放蕩三昧という、さんざんな子供時代を過ごします。

台場公園案内板

山頭火自身が其中日記（十一）に「私が自叙伝を書くならば、その冒頭の語句として、―　私一家の不幸は母の自殺から初まる、―　と書かなければならない」と書いているように、彼の行乞人生の発端は母の自殺に始まったといわれます。山口中学から早稲田大学文学科に進学するも、酒と文学に溺れ中退して帰郷、父とともに種田酒造場を開業。

薩英戦争砲台跡へ

しかし、うまく行かず種田家は破産。それにともない、34歳の４月、妻子を連れて熊本市に落ちのびますが、その後も、弟の自殺、妻サキノとの離婚など苦難は続き、44才の大正15年の春４月、解くすべもない惑ひを背負うて、行乞流転の旅に出ます。一鉢一笠の行乞行脚の旅の始まりでした。

薩英戦争砲台跡案内板

山口県小郡町に「其中庵」、湯田温泉に「風来居」を結びますが行乞は止められず、ついに昭和14年９月27日未明、広島から海路松山に上陸。松山に安住の地を求める山頭火に、高橋一洵、藤岡政一らの奔走により、ここに望みどおりの草庵が見つかりました。在庵10か月、昭和15年10月11日に脳溢血のため永眠するまで住みました。享年59。

薩英戦争砲台跡

放浪流転のなかで、生涯あわせて八万四千句にのぼる句を詠んだといわれている。のちに草庵は大山澄太の提案で「一草庵」と名付けられました。一草庵の老朽化にともない、昭和27年（1952年）に当時の愛媛県知事久松定武を会長とする「山頭火顕彰会」が浄財を集めて新たに庵を新築。

復元された砲台と大砲のレプリカ

その後、昭和55年（1980）に「山頭火顕彰会」から松山市に寄贈され、以来、松山市の管理するところとなりました。平成19年10月から隣接する用地を取得して休息所等の便益施設を建設、平成21年3月に完成。敷地内に山頭火の４つの句碑が建立されました。

　
　　鐡鉢（てっぱっ）の中へも霰（あられ）　山頭火
　
昭和７年（1932年）１月８日、福岡県遠賀郡芦屋町で托鉢（はくはつ）に出たきの句。『行乞記』に、「今日はだいぶ寒かった、一昨六日が小寒の入、寒くなければ嘘だが、雪と波しぶきとをもともにうけて歩くのが行脚らしすぎる」と記し、この句がある。この日、６里（約24㎞）を歩いた。没後、初めて建てられた（山頭火にとって2番目の）句碑で、山頭火の顎髭（あごひげ）が納められている。昭和16年３月21日建立。
　

　
濁れる水になかれつゝ澄む　山頭火
　
死の１か月前、『山頭火句帳』の昭和15（1940）年９月８日の項に、「濁れる水のながるるままに澄んでゆく」の句とともに記されている。この庵の前を流れる大川を詠んだ句であるが、自らの人生を観じた句でもある。20年近い流転孤独の生活の悩みと寂しさに、濁れる水のように心を曇らせながらもなお、逞（たくま）しく自己をむち打つ続け、そこから自己の魂を取り戻そうと努めた山頭火の境涯が重なる。平成２年10月10日建立。
　

　
　　春風の鉢の子一つ　　山頭火
　
昭和８（1933）年３月19日、山口市小郡町での句。『其中（ごちゅう）日記』に、句友３人が来庵、「其中庵稀有の饗宴がはじまった。よい気持で草原に寝ころんで話した、雲のない青空、そして芽ぐみつつある枯草。道に遊ぶ者の親しさを見よ。夕方、それぞれに別れた、私は元の一人になった、さみしかった。」と記し、この句がある。「鉢の子」は、托鉢僧が使う容器。厳しい冬は「鉄鉢（てっぱつ）」、暖かい春は「鉢（はち）の子（こ）」と詠み方を変えている。昭和48年３月21日建立。
　

　
一洵君に
　
　　おちついて死ねさうな草枯るる　山頭火
　
昭和14年（1939）年12月15日、高橋一洵が奔走して見つけたこの草庵に入った山頭火は、日記に「私には分に過ぎたる栖家（すみか）である」と記し、その労苦に感謝して一洵にこの句を呈した。「死ぬことは生まれることよりむつかしいと、老来（ろうらい）しみじみ感じ」た山頭火が、一草庵を終（つい）の住処（すみか）とした境地である。翌年３月には、改めて「おちついて死ねさうな草萌ゆる」と詠んでいる。平成６年10月10日建立。
　

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