旅行記  ・『焼酎の落書き』のある神社 − 鹿児島県大口市   



鹿児島県の北部、熊本県との県境に位置する大口(おおくち)市や菱刈(ひしかり)町では、伊佐地方の恵まれた天然環境のもとで、伊佐美・ 伊佐錦・大泉などの本格焼酎が生産されてきました。そんな大口市に、『郡山八幡神社』という神社があります。建立は建久4(1193)年と言われ、京都の金閣寺より古い歴史を持ち、室町および桃山形式の手法と琉球建築の情緒が見られる神社で、国の重要文化財に指定されています。現在の本殿建物は、昭和29(1954)年に国の手で復元修補されたものですが、復元修補の際に非常に珍しいものが発見されました。それは、本殿北東の柱貫の先端に久しく釘付けにされ塗り込められていた木片の裏に書かれた、「座主が一度も焼酎を飲ませてくれない。」という内容の落書きです。これが、わが国における『焼酎』という文字の初見であり、今から4百数十年前の室町時代に、すでにこの地に焼酎が普及し、庶民に飲まれていたことが伺えるのです。
  レポート『焼酎の話し(その2)』と併せてご覧下さい。       (旅した日 2004年1月)

郡山八幡神社(国指定重要文化財)と焼酎の落書き

郡山八幡神社/菱刈(ひしかり)氏の始祖菱刈重妙が、建久5年(1194年)に領内を巡視のとき一老翁に会い、「われは豊前の宇佐八幡である。われをここに祭れば汝の子孫を守護し、その栄福を祈るであろう。」といわれ、その言葉を信じて豊前宇佐八幡の神霊を勧請し、建立したのが、この神社と語りつがれています。


焼酎の落書き/室町時代の
永禄2年(1559年)は、織田信長が桶狭間(おけはざま)の合戦で今川義元を破った前年であり、この年に社殿を修補した大工が書きしるしたと思われます。「こす」とは、方言で「けち」という意味です。「座主(ざす)」とは、大寺の寺務を統括する主席の僧職のことです。「社殿修補のとき、座主がたいそうけちで、一度も焼酎を飲ませてくれない。えらい迷惑なことだ!」と訴えています。(※写真は、大口市焼酎資料館木樽に陳列してある複製のものです。)


南九州では、上棟式とかお花見とかの祝い事や神事の寸志には、決まって焼酎が使われてきました。焼酎一本、焼酎一杯がコミュニティの潤滑油としての役割を果たしてきたのです。4百数十年前もそうだったのでしょう。焼酎の落書きを書いたのは、おそらく棟梁あたりでしょう。もちろん自分も飲みたいが、大工たちをねぎらってやれない迷惑を嘆いているのでしょう。嘆きが伝わってくるようです。

大口市焼酎資料館木樽
焼酎の歴史や文化、作り方などを知ることができる焼酎資料館です。郡山八幡神社のすぐ裏手にあります。昔ながらの製造工程や焼酎文化がビデオやジオラマ、立体写真によって再現されている。試飲コーナーもあり、いろんな種類の焼酎の飲み比べを楽しめます。郡山八幡神社の『焼酎の落書き』の複製もここに置いてあります。


所在地:鹿児島県大口市大田1551(TEL 0995-22-6767 )/休業日:月(定休日が祝日の場合は翌日休)/入場料:210円、こども100円(小中高校生)、160円(20名以上)/無料駐車場30台有り

【備考】
本ページの説明文は、『郡山八幡神社境内の案内板』と『大口市焼酎資料館木樽パンフレット』を参考にして書きました。
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