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旅行記 ・旧赤崎小学校 − 熊本県津奈木町 2016.04.20
旧赤崎小学校
旧赤崎小学校遠景
津奈木町 熊本県葦北(あしきた)郡津奈木(つなぎ)町は、鹿児島県と県境を接する熊本県南端の水俣市の北隣りにある、海と山に囲まれた人口約 4,900人の小さな町です。気候温暖でさまざまな品種の柑橘類が栽培され、面する八代海からは新鮮な魚介類が豊富にとれます。
船溜まり越しに見る旧赤崎小学校
旧赤崎小学校 津奈木町には、1つの中学校と3つの小学校がありましたが、そのうちの1つ、赤崎小学校は、2010年3月に児童数の減少にともない廃校となり、現在校舎は立入禁止になっています。八代海の風光明媚な小さな入り江沿いのこの小学校は、校庭を確保するために校舎が海上に建てられた、全国で唯一の『海の上の学校』として有名でした。
『ありがとう赤崎小』の文字が
三階建ての校舎は『客船』をかたどったデザインで、時計のある真ん中の高い部分は煙突のように斜めにカットされています。そして、児童たちは昼休みになると目の前に広がる海で泳いだり、廊下の窓から魚釣りをして楽しみました。校舎はいま出港しようとする客船に似た、まさしく『海の上の学校』でした。
校門を入ってすぐの光景
赤崎水曜日郵便局 この旧赤崎小学校に郵便受けを設置して、2013年6月に3年限定で始まったプロジェクトが『赤崎水曜日郵便局』(日本郵政株式会社とは関係のない仮想郵便局)でした(2016年3月31日をもって閉局)。そこへ全国から個人の水曜日の出来事を記した手紙を送ってもらい、それらをスタッフが無作為に交換して再び送り返します。
赤崎小学校閉校記念碑
手紙を送った人は、数日後にまったく知らない『誰かの水曜日』の出来事が記された手紙を受け取るわけです。手紙は、特設のウエブサイトからダウンロードした便せんに、水曜日の出来事や物語を書き切手を貼って郵便で送ります。宛先は、〒869-5605熊本県葦北郡津奈木町福浜165番地その先 赤崎水曜日郵便局。まさに、陸地の先の海の上にある郵便局でした。
客船をかたどった校舎
手紙が送られてくると、手紙は旧赤崎小学校の校庭に設置された郵便受け『スイスイ箱』に届きます。届いた手紙は赤崎水曜日郵便局の局員が回収して『つなぎ美術館』へ運びます。すべての手紙を局員が読んで複写し、個人情報を伏せた複写の手紙を無作為に選んだ相手へ転送します。
郵便受け『スイスイ箱』
転送する際は、転送専用の封筒にオリジナルの切手が貼られ、津奈木町に隣接する水俣市の水俣郵便局で赤崎水曜日郵便局オリジナルの消印が押されます。こうして転送された手紙は水曜日に開封されることになります。『赤崎水曜日郵便局』は、水曜日の物語が綴られた手紙によって人々の日常を交換するアートプロジェクトでした。
海側からみる校舎
なぜ『水曜日』だったのでしょうか。建物が海の上にあったこと、海が陸と陸をつなぐように赤崎水曜日郵便局も人と人をつないでゆきたいという思いがあったこと、週の通過点で記憶に残りにくい1週間の真ん中の水曜日の出来事に焦点をあてることで日常性を大切にし、他人の日々の暮らしにも思いを馳(は)せて欲しいという願いがあったことが理由だったそうです。
旧赤崎小学校と『灯台ポスト』
赤崎水曜日郵便局
赤崎水曜日郵便局のシンボル『灯台ポスト』
水俣エリアでもある津奈木町では、公害からの地域再生を目的に1984年から『緑と彫刻のある町づくり』が進められており、町の要所には16点の彫刻が設置されています。この『緑と彫刻のある町づくり』の集大成として2001年に『つなぎ美術館』が開館し、展覧会のほかさまざまなイベントが開催されてきました。
水曜日の夕方には明りが灯されました
しかし、訪れるのはほとんどが町外からの人で、住民の利用は多くありませんでした。そこで、住民にもっとアートに興味を持って欲しいという思いから、2008年に社会教育事業として住民参画型アートプロジェクトの取組みが始めらました。そのプロジェクトの企画を考える中で提案されたアイデアが『赤崎水曜日郵便局』でした。
『灯台ポスト』』
全国から届く手紙を受ける郵便受けが、伝馬船の廃材や旧赤崎小学校に残されていた机などを用いて制作され、『スイスイ箱』と名づけられて校舎前の校庭に据え付けられました。また、干潮になると小学校と陸続きになる小さな島に赤崎水曜日郵便局の象徴となる『灯台ポス』トが制作され、水曜日の夕方になると明りが灯されました。
『つなぎ美術館』
以上の説明文を書くにあたって、楠本智郎・編著『赤崎水曜日郵便局 見知らぬ誰かとの片道書簡』((株)KADOKAWA、2016年2月11日第一刷発行)(写真下)を参考にしました。この書簡集には、4000通を超える手紙の中から選ばれた 101通の手紙が掲載されています。
書簡集『赤崎水曜日郵便局』
− 編集後記 −
『他人の日常』はこんなにもささやかで、こんなにも劇的。自分の『水曜日の出来事』を手紙に書いて送ると、『誰かの水曜日』の手紙が代わりに届く。新幹線に乗って書簡集『赤崎水曜日郵便局』を読みながら、目頭を熱くしたのは2016年4月9日のことでした。旅から帰ったら、旧赤崎小学校を訪ねてみようと決めていたところへ、4月14日熊本地震が発生し、熊本県益城町や阿蘇地方を中心に甚大な被害がでてしまいました。旧赤崎小学校を訪ねた4月20日はポカポカ陽気で、旧赤崎小学校を見下ろす背後の岡ではミカンの花の蕾が膨らみを増していました。熊本地震が沈静化し、復旧・復興が進み、そのような穏やかな日々が再び熊本県下全土に戻るのを祈らずにはいられません。(2016.04.25)
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