レポート | ・わが国のIT現状(日米のIT戦略を比較して) |
− わが国のIT現状(日米のIT戦略を比較して) −
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2002年5月24日、福岡市内で開催されたCAEセミナーで、関西CAE懇話会の田中豊喜会長が「IT時代におけるCAEの役割とCAE懇話会について」と題して講演されました。そのなかで、日米のIT戦略の比較についてのお話しがありました。以下にその概要をまとめました。 アメリカの活力とIT戦略 1991年のソ連崩壊に伴う冷戦構造の終焉により、米国は国防予算を45兆円から21兆円に削減した。その削減された予算は民需へ向けられた。そして、軍需で開発されたVirtual Reality、 Flight Simulator、探索衛星、インターネット、電磁波による認識、GPSなどの軍事技術が民生で活用されることになった。いわゆる、Defense Conversionである。 米国のここ4、5年のGDPの成長の30%は、ITによるものである。米国では、従来のビジネスモデルの解体と再構築、工業化社会から情報化社会への変革など、経営革新としてITが活用されてきた。経営革新を伴うIT戦略である。Restructuring、BPR(Business Process Restructuring)、SCM、CPC、Digital Engineeringなどは、「事業構造の変革+IT革命」を意味する。 わが国のIT戦略 日本では、効率化のTool(道具)としてのIT戦略であった。事業構造は、そのままである。経営者の意識不足、対応の遅れが上げられる。失われた10年と言われるが、ITに関しても例外ではない。東京大学の月尾教授によると、2000年現在の日本のITの状況は以下の通りである。コンピュータ普及率は世界で19位、携帯電話の普及率は26位、インターネットの利用者19位、E-Commerceの活用31位。まさに国難であるが、危機意識が不足している。 半導体−アメリカの巻き返し 1980年代、米国は、半導体、自動車、通信などの分野で日本に追い抜かれた。それらの分野は、国防に直結する最重要産業の分野であり、他産業への影響力の大きい分野である。ものすごい危機感をもった米国は、挙国一致体制で半導体分野での巻き返しを図った。例として、SEMATECH(Semiconductor Manufacturing Technology Institute)、CIS(Center for Integrated Systems、Stanford Univ.)があげられる。基礎研究を大学が受け持ち、応用研究を民間が行う。企業組織として意思決定が速い。現在日本は、半導体分野で完全に米国に水をあけられている。 日本の今後の在り方 まずは、甘えと依存の体質からの脱却、自己革新、独立自尊(自立)の精神など、意識改革が必要である。次ぎに、社会・政治などの構造改革として、個の確立と公の創出(脱・島国)が必要である。経済、産業(事業)構造の再構築として、ITのアメリカ的活用が必要である。 日本は古来から、自然を大切にし、自然に調和して生きてきた民族である。自然と環境と社会の調和についてイニシャチブを取れるはずである。また、宗教に対して比較的寛容な民族である。宗教対立の問題で指導力が期待できるのではないか。和魂洋才。改革に向けて大和魂で実行して欲しい。「ダーウィンの進化論」によれば、この世で生き残るのは、力のある生物でもなければ、賢い生物でもない。変化に適応できる生物である。 〔補足〕 ・国産半導体の復活をめざす動きの紹介(NHKの「クローズアップ現代」) 折しも、2002年5月21日 のNHKの「クローズアップ現代」では、「巻き返せるか国産半導体」と題して国産半導体の復活をめざす動きが紹介された。内容は以下の通り。日本の半導体の各メーカーは、外国勢とのコスト競争に破れ、軒並み事業の統廃合に追い込まれている。生き残りをかけて、家電やエンジンなどを制御するシステムLSIと呼ばれる付加価値の高い半導体製品に重点をおいて戦略の練り直しを行っている。経済産業省が、10分の1の生産コストの実現を目指す産官学の国家プロジェクトを立ち上げた。 ・SEMATECH(セマテックSemiconductor Manufacturing Technology Institute) 1987年に設立された米国の官民共同出資の超LSI共同開発・製造会社。 ・SCM(サプライチェーン・マネジメントSupply Chain Management) 調達・生産・販売・物流の業務の流れを、ひとつの「鎖」(チェーン)としてとらえて管理する考え方。不確実性の高い市場の変化に俊敏に対応し、「販売機会損失」「不良在庫」の課題解決を図る。サプライチェーンの各プレイヤー同士で情報を共有することによって、最川上の原材料の調達から川下の消費者までのリードタイムを短縮すると共に、余計な在庫や無駄な物流コストなどを削減し、安価に、スピーディーに消費者のもとに届けることが目標。 ・CPC(コラボレイティブ・プロダクト・コマースCollaborative Product Commerce) 協調型設計/販売業務環境。Webを使って、CAD、PDM(プロダクト・データ・マネジメント)、調達システム、SCM(サプライチェーン・マネジメント)システム等を連動することにより、他社と製品情報・顧客情報・企業情報等の共有化を行い、共同で商品の設計・製造・販売をしようという概念。特に特注品、カスタムメイド製品の設計期間・納期短縮、コスト低減、意思決定のスピードアップの実現を目指すもの。 |
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2002.05.24 | ||||
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