コラム  ・焼酎の話し   
− 焼酎の話し −

鹿児島県内には、100社の焼酎の蔵元があり、1社平均10の銘柄が生産されていると言われています。とすると、県内で実に1000の銘柄の焼酎が生産されていることになります。これは、驚きです。本当かなと思って、鹿児島県酒造組合ホームページを覗いてみると本当に100社の蔵元があるのです。9月〜11月、さつまいもの収穫にあわせて、それらの蔵元では、芋焼酎の仕込みが始まり、どの蔵元でも芳醇な香りが漂っていたことでしょう。


石蔵を訪ねて


鹿児島県姶良(あいら)町にある白金酒造(株)の限定販売焼酎「山田の凱旋門」を購入したのがきっかけで、11月の中旬の快晴の日、白金酒造を訪ねました。この蔵元は、1869(明治2)年創業の、石で作られた石蔵を持つ県内でも最古の歴史を有する蔵元です。その石蔵は、山田の凱旋門とともに、2001(平成13)年に国の有形文化財に指定された石蔵で、1877(明治10)年の西南戦争では、一時、西郷軍の陣屋になったと言われています。


・旅行記  凱旋門と石蔵 − 鹿児島県姶良(あいら)町
     → http://washimo.web.infoseek.co.jp/Trip/Ishigura/Ishigura.htm


その石蔵では、昔ながらの「かめ仕込み」・「木桶(きおけ)蒸留」による製法が再現され、手造り焼酎「石蔵(いしぐら)」が造られています。この銘柄の焼酎は、西郷隆盛も好んで飲んだ芋焼酎だと言われています。また、西南戦争を前に、西郷自身がこの蔵元に直接焼酎を買い付けにきたそうです。焼酎は、兵士の楽しみであるとともに、負傷兵にとっては貴重な消毒液となったのです。薩摩軍の屈強の秘密は、案外焼酎にあったのかも知れません。白金酒造の常務さんの案内で見聞きした、昔ながらの手造り焼酎の作り方や焼酎にまつわる言葉などについて書いてみました。


製麹(せいきく)〜赤子を育てるように


焼酎造りは、麹(こうじ)と酵母(こうぼ)の2つの微生物の助けを借りています。焼酎の仕込では、まず水に麹と酵母を混ぜて6日前後かけて発酵させ、酵母の増殖をはかった酒母(もと)を造ります(一次仕込み)。


つぎに、酒母(もと)に蒸した芋を加え、よく混ぜ合わせて10日前後発酵させます。芋は、ワイン(ぶどう)と違って主成分がデンプンなので、麹菌の働きでまずデンプンを糖分に変換します。変換された糖分は酵母によってさらにアルコールと炭酸ガスに分解されて、アルコール含有率が14%前後のもろみが造られるのです(二次仕込み)。


昔から、酒造りは「一麹、二もと(酒母)、三造り(もろみ)」と言われてきたそうです。何よりも麹(こうじ)が基本なわけです。うるち米を昔ながらの木桶で洗い、浸漬し、蒸します。蒸した米を40℃程度に冷やし、それに種麹を手もみで一粒一粒まぶします。杉の一枚板で作った「もろぶた」(木の平箱)に一升ずつ盛り、2日間程度かけて麹を培養します。これが、麹造り、つまり製麹(せいきく)です。製麹の2日間は、温度と湿度の管理がとても重要で、杜氏(とうじ)が最も気を使う期間だと言われます。


白金酒造では、石蔵の裏にある室屋(むろや)と呼ばれる麹室で製麹が行われていて、製麹の期間中、麹室の風道を絶えず開閉し、温度が低いときは一晩中寝ないで、室内を温めたり、布団をかぶせたりして、まるで赤子を育てるように昼夜を問わず見守るのだそうです。杜氏頭は、睡眠不足でふらふらの状態になるそうです。


疲れるのは、杜氏だけではないようです。もろぶたなどの道具は、「室(むろ)づかれ」といって、日が経つと疲れてくるそうです。そこで、定期的に休ませ、水洗い後、天日干しし、リフレッショするのだそうです。訪れた日も、石蔵の裏の室屋の横に、沢山のもろぶたが天日干しされていました。


木桶蒸留の柔らかい味わい


アルコール含有率が14%前後のもろみを、木桶で蒸留します。木桶蒸留機は、手入れが大変なうえ、使用できる期間は4〜5年と短期間ですが、木の香りがもろみに移り、柔らかい味わいの焼酎を造れるそうです。もろみを蒸留すると、最初にアルコール含有量67%前後の原酎が出てきます。うまみ成分が一番凝縮されている部分で、花滴(はなたれ)と呼ばれるそうです。綺麗な言葉ですね。それに対して最後に出てくる部分を末垂(すえたれ)と呼ぶそうで、末垂は、13%前後でカットされます。


通(つう)の飲み方〜「黒ぢょか」


「黒ぢょか」は、400年の歴史を持つ「薩摩焼」の中の黒さつまという鹿児島の伝統工芸が生きづいている酒器です。焼酎通の間では、今でも「黒ぢょか」で飲む方も少なくありません。黒さつまの素朴で渋味のある色合いと独特な形状が魅力的で、最近では、お土産やインテリアとしても人気があるようです。「黒ぢょか」は、洗わずにそのまましまって置きます。使い込めば使い込むほどに、焼酎が地肌にしみ込んで、焼酎の持つ独特のコクとうまみが滲(し)み出てくると言われます。


飲み方は、あらかじめ前日より水で割っておいた焼酎を「黒ぢょか」に注ぎます。一日置くことで焼酎と水が良く馴染み、よりまろやかな焼酎になります。焼酎6に対してと水4が、最もポピュラーな濃度ですが、好みの濃度で構いません。使用する水はミネラルウォーターなどの良質なものが良いです。「黒ぢょか」をそのまま弱火にかけ暖めます。「黒ぢょか」の表面が暖かくなってきた頃が飲み頃です。温度は、「黒ぢょか」の表面で確認します。温める温度の目安は人肌程度です。お猪口に注いでじっくりと頂きます。


ダイヤメ(だれやめ)


鹿児島では、晩酌のことを方言で「ダイヤメ(だれやめ)」と言います。「ダレ」は「だれる」(疲れる)の意味の「だれ」で、「ヤメ」は「止める」の意味です。一日の労働の疲れをいやすことからきています。昔からダイヤメは二合までといわれ、それ以上飲むと、それは飲ん方(宴会)になります。ダレヤメは、焼酎をたしなむことで一日の生活を締めくくる習慣で、飲みすぎると一日の生活を締めくくるどころか、疲れを翌日に引きずることになりかねないわけです。


山芋(やまいも)を掘る


鹿児島では、酔っ払って人に絡んだり、くどくどと愚痴をこぼしたり、嫌みを言ったりするさまを、「山芋を掘る」といいます。これは、山芋(自然薯・じねんじょ)を掘るとき、山芋が土中深く埋まっているので、どうやって掘ろうかと思案してブツブツ言ったり、細くて折れやすいので、気が立ってきます。山芋掘りのそのようなさまから転じて、「山芋を掘る」と言うようになったものと思われます。


また、「焼酎はへそから下い飲め」(しょちゅはへそからしたいのめ)ということわざがあります。「酒は定量を守って飲みなさい、飲みすぎて、喉元あたりまでくるようだと、ついつい余計なことを口走ってしまうから、気をつけなさい。」という戒めです。


ナンコ


鹿児島に古くから伝わる酒席で行われる遊びです。慶長3年(1598)島津義弘が朝鮮の役から帰国した際に始められたと伝えられています。二人があぐらをかいて60〜70cm隔てて対峙します。お互い三本ずつのナンコ棒(断面が1cm角程度の正方形で長さが8cm程度の木製の棒)を持って、まず両手を後ろ手にして手の中に隠しておきます。その中の何本かを右手で握り持ち、その右手の拳を相手の前に突き出し、何本持っているかを当てる遊びです。相手が持っている本数を言い当てる当て方と、双方の合計本数を言い当てる当て方があります。そばに審判役が居て、負けた方に猪口(ちょこ)で焼酎を飲ませます。本数の呼び方に独特の言い方があって面白いです。


例えば、
ゼロ  : お手パラ(あなたの手中はゼロ)、オイヤラン(誰もいない)。
一本 : 一丁、一人者(ひといもん)、大統領(一人しかいない)、ウゼケンに
     一人(世間に一人)、電気ンバシタ(電柱)、稲田のカカシ。
二本 : 下駄(ゲタ)ン歯、ジャン、ジャンボ(両棒)、オンジョンボ(夫婦)。
三本 : インノシベン(犬の小便)、下駄(ゲタ)ン目。
四本 : 蚊帳(カヤ)ン釣手、シンメ(四枚)、鶏が二匹(足が四本)。
五本 : ゴンメ(五枚)、片手(五本)、ゴンジュウ(五十)。
六本 : スッパイ(全部)、ケネジュウ(家内中)、ウゼケンイッペ(世間一杯)。

                      以上、焼酎にまつわる話しでした。

【参考】
・鹿児島県酒造組合ホームページ → http://www.shochu-otu.or.jp/



2003.12.03 
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