コラム  ・俳句鑑賞『夜店』   
− 俳句鑑賞『夜店』 −
 
            『夜店』
 
夜店は夏の季語です。”夜、路傍に開く露店のこと。寺社の縁日には欠かせないもの。安価のものや子供の喜びそうなものを売っている。子供は夢中になり、大人は納涼を兼ねてそぞろ歩く。”(角川書店『合本俳句歳時記』より)
 
鹿児島地方でこの時期の夜店といえば、7月に入って約一ヶ月間、あちこちの神社で開催される夏の風物詩『六月灯』(ろくがつどう)の夜店です。親から子、子から孫へと伝えられ、日頃は物置かどこかにしまってある直方体の木枠を取り出します。
 
親やお兄さん、お姉さんたちに手伝ってもらいながら、それに障子紙や習字紙を張り子供たちが思い思いの絵を描いて角灯篭に仕上げ、寺社に持ち寄って奉納します。鹿児島市の照国神社や南洲神社といった大きな神社の『六月灯』では、門前や境内に夜店が並びます。
 
   夜店匂ふかつて妻の日娘の日  岡本 眸
 
岡本 眸(ひとみ) 1928年〜、女流俳人。俳人協会賞、蛇笏(だこつ)賞、毎日芸術賞を受賞。俳誌「朝」を創刊、主宰。実生活にもとづく素材を平明な表現で詠む。
 
            『花火』
 
花火大会にも夜店は付き物です。”夜空に高く花開く打ち上げや仕掛けなど大型の花火と、庭先で楽しむ線香花火などの玩具花火に大別される。初期俳諧では花火は盆行事の一環と考えられ、秋の季語であったが、現在では納涼の意味で夏の季語とする。隅田川の花火大会は、かつての『川開き』の花火の名残をとどめている。”(同上)
 
   人と逢ふ胸の高さに遠花火  藤木倶子
 
遠花火とは、文字通り遠くから見る花火のこと。時として音のない花火であることがあります。打ち上げ花火は見る場所によって趣が違ってきます。見上げる天空を割るような轟音とともに大輪を咲かせる花火に嬉々と興じ入る年頃はもう過ぎた。
 
けれども、ときめきというものがないわけではない。逢うとはわざわざ出かけてきて一緒に時を過ごすこと。中七の”胸の高さに”が、花火との遠近感とともに、寄り添いながら遠花火を眺めている情景、心情を表現しています。
 
            『金魚』
 
そして、夜店に欠かせないものの一つが金魚すくい。”金魚は鮒(ふな)の選別淘汰されたもので、室町時代に中国から伝えられたとされ、その後日本で品種改良が重ねられ、出目金・琉金・蘭鋳その他さまざまな新品種が作り出された。夏季は鑑賞される他、金魚売り・金魚店・金魚釣り・金魚池など詠諷の対象は広い。”(同上)
 
   淋しくて金魚たくさん飼ひにけり  館岡りそ
 

2012.07.25  
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