コラム  ・竹の秋、竹落葉   
− 竹の秋、竹落葉 −
今年(2009年)の南九州は、一日だけ雨に降られましたが、快晴の日の続いたGWでした。高速代が一区間 1,000円ですむということもあって、例年のごとく、佐賀県伊万里と長崎県三川内(みかわうち)の窯元を訪ね、近場では、薩摩焼の里、美山(鹿児島県日置市)に出かけたりでした。
 
出かけない日は、わが家の孟宗竹林に入って作業でした。3〜4年前の台風で竹が倒されていて荒れ山になっていたので、片付けと灌木の下払い作業でした。竹林はこの時期、落葉の季節です。竹林の静寂な空間の中で一枚、二枚ひらりひらりと、一陣の風が吹くと、大勢が連れ添ってひらひらと落葉します。
 
竹山は、筍(たけのこ)が出始める春先、黄色に紅葉したような景色を呈します。親竹が前年から蓄えてきた養分を地下の筍の生育に注ぎ込むため、葉が色褪せ黄ばんだ状態になるのです。そんな様子を他の植物の秋枯れになぞらえて、『竹の秋』といい、春の季語としました。
 
    夕方や吹くともなしに竹の秋    永井荷風
    門前の古き旅籠や竹の秋      中村吉右衛門
    老夫婦のみの隣家も竹の秋     飯田龍太
    結局みんなおふくろ定食竹の秋   飯島晴子
 
さらに季節が進んで筍が若竹に生長する初夏の頃になると、紅葉した葉は、1年間の働きを終えて枯れ、落葉を始めます。そして、地面は一面落葉に覆われるのですが、しかし、竹を見上げても枝は青々とした葉をふさふさと蓄えているばかりで、枯れ枝の風景はありません。竹はあくまで常緑です。
 
というのは、紅葉している葉の付け根の小枝では、すでに新しい葉が針状に伸び出していて、枯葉が落ちると同時に開いてくるのです。先人は、『竹落葉』を夏の季語に取り込みました。
 
    しんかんと山閃々と竹落葉    広瀬直人
    垣結ふや竹の落葉を払ひつゝ   尾崎紅葉
    野の宮は竹落葉するばかりなり  石井露月
 
春なのに秋、夏に落葉、いかにも日本人らしい着想ですが、春や夏の現象のため、本来の秋の凋落(ちょうらく)というほどのもの寂しさはありません。だからこそまたそこに、特有の風情が感ぜられるということでしょう。
 
    午後よりは風ある予感竹落葉   ワシモ
 
【言葉】
しんかん〔深閑/森閑〕= 物音が聞こえずひっそりとしているさま。
閃々〔せんせん〕=輝くさま。きらきら。ひらめき動くさま。
凋落〔ちょうらく〕=勢いがおとろえること。おちぶれること。
 
【備考】
わが家の孟宗竹林の『竹の秋』と『竹落葉』をご覧下さい(手入が行き届いていないので、残念ながら京都嵯峨野や鎌倉報国寺の竹林のようには美しくはありませんが)。
 → http://washimo-web.jp/Information/TakenoAki.htm
 

2009.05.26  
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