コラム  ・俳句鑑賞『炭』   
− 俳句鑑賞『炭』 −
まだ雪は降りませんが、南国鹿児島もこの冬最強の寒波襲来の影響を受けて、寒い毎日が続いていて、暖房器具なしには居られません。『炭』は木炭のこと。エアコンやストーブが現在ほど普及していなかったころには、冬の暖房に欠かせなかった、と俳句歳時記にもあります。
 
    学問のさびしさに堪へ炭をつぐ   山口誓子
 
日常生活に欠かせない必需品だっただけに、樹種・製法・用途などによって無数の種類があったようです。硬炭、白炭など炭の性質によって分けたり、雑丸(ぞうまる)・雑割(ぞうわり)・楢丸(ならまる)・楢割(ならわり)・楓丸(かえでまる)など原料の樹種や形によって分類されていました。
 
桜炭(さくらずみ)は、千葉県佐倉(さくら)地方に産する良質のくぬぎ炭のことで、「桜」はあて字です。切炭(きりずみ)は、使いやすい大きさに切った炭のことです。現在では、バーベキューやなどで使う切炭がアウトドア専門店や通販などで売られています。
 
    くらしぶりにも偲ばれる桜炭   稲畑汀子
    切炭の火は花のごと奥吉野    澤井我来
 
茶道には「炭手前」という、釜の湯を湧かすために炭をおこす美しい手順があるそうです。茶道に用いる炭には枝炭や花炭などがあります。花炭は花木を姿そのままに焼いた白炭。また、枝炭(えだずみ)は、躑躅(ツツジ)などの細い枝が二股・三股になった小枝を焼いたもので、胡粉(貝殻を焼いて作った白色の顔料)を塗って白色にしたものを「白炭」(しろずみ)といい、塗らないものを山色(やまいろ)というそうです。
 
    花炭の白粉(おしろい)ぬりて京に入る   一茶
    朝晴れにぱちぱち炭のきげんかな     一茶 
 
炭は起こして、つぐといいます。起こした火の種が途切れないように継ぐわけです。炭起こし、炭つぎのある生活は、丁寧に暮らす日本文化そのものだったように思われてきます。
 
    人といふかたちに炭をつぎにけり   島雅子
    炭つげばべこの玩具が首を振る    大久保白村
 
埋火(うずみび)は、炉や火鉢などの灰の中にうずめた炭火のことで、いけ火、いけ炭ともいいます。よく熾(おこ)った炭火をたっぷりと灰でおおい、火種を長持ちさせたり火力を調節したりします。灰のなかで火を持続し続けることから秘めたる恋にたとえて和歌が詠まれたりしています。
 
    埋火も消ゆや涙の煮ゆる音    芭蕉 
    色美しき母の埋火かき出だす   大串章
 

2017.01.18
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