レポート  ・ストレス(応力)と強度設計   
− ストレス(応力)と強度設計 −


              1.プロローグ 
 
強度不足を指摘されたマンションやホテルが、未完成のものを含めて2005年11月29日現在で44件にのぼるそうですから、マンションなどの耐震強度偽装問題は、大変深刻な問題になってきています。建築構造物の耐震強度計算と具体的な方法や手順は、必ずしも同じではありませんが、機械部品や機械装置の強度設計を取り上げてみました。


                2.物もストレス(応力)を感じる


精神的・肉体的に負担となる刺激や状況のことをストレス(Stress)といいます。休日の午後、コタツに寝転んでゴルフ中継を見ながらくつろいでいます。ストレスのない状態です。そこへ用事を頼まれました。したくないので反抗する気持ち、すなわちストレスが発生します。


断面幅が10mm、断面高さが10mmの鉄鋼製の角棒があります。この棒の両端に 3,000N(ニュートン)の荷重(力)をかけて引張るとします。 3,000Nという荷重は、おおよそ質量 300kgの物体の重さに相当します。


角材の内部には、引張られることに抵抗する力が発生します。外から加えられた力に対抗して材料内部に発生する単位面積(1平方ミリメートル)当たりの力のことを、工学ではストレスと呼んでいます。日本語では、『応力(おうりょく)』といいます。


               3.引張りを受ける角棒


一本の角棒は、心も気持ちも無いように見えますが、引張られると、壊されまいと必死になってそれに耐えるのです。このとき、角棒が感じるストレス、すなわち応力を数値で表してみましょう。引張りを受ける部材の応力は、簡単な次式で計算できます。すなわち、


     応力 = 外から加えた力 ÷ 断面積 ・・・・・・式(1)


なので、応力は、3,000N ÷(10mm×10mm)=30MPa(メガパスカル)となります。
                       ↑         ↑
                正方形断面の面積    応力の単位


〔図1〕角棒の引張りと発生する応力(ストレス)
      → http://washimo-web.jp/Information/Stress01.htm


休日の午後に用事を頼まれたぐらいで、キレているわけにはいきませんが、生き物は、ストレスが積もり積もると耐えられなくなり、潰されることがあります。鉄鋼製の角棒も同様で、引張る力をだんだん大きくして、応力が 300MPa になると耐えられなくなって、破壊し始めます。


したがって、鉄鋼製の機械部品や構造物部材は、その内部に発生するストレス(応力)が、 300MPa よりずっーと低い値におさまるようにその寸法を決める必要があるわけです。これが強度設計の意味です。


               4.片持ちはり


釣さおや水泳の飛び込み台のように、一方の端が固定され、もう一方の端に力がかかる部材を『片持ちはり』といいます。片持ちはりになると、応力(ストレス)を計算する式が少々複雑になります。


最近は、発生する応力の分布をコンピュータで解析できるようになりました。人が重量物を持つときには、腰に大きな負担がきますね。つまり、身体内に発生する肉体的なストレスは、腰のところで最も大きくなるわけです。それと同じように、片持ちはりでは、固定点(付け根)で応力が最も大きくなります。その様子をコンピュータ解析で見てみましょう。


〔図2〜3〕片持ちはりに発生する応力(ストレス)の分布
      → http://washimo-web.jp/Information/Stress02.htm


固定点および固定点に近いところに最大応力が発生しています(真っ赤な部分)。そして、先端に行くほど、応力は小さくなっています。このはりが破壊するとすれば、固定点あるいはその近くで破壊します。


             5.設計の流れ(ハンガーを設計する)  


設計は、どのような手順で行なわれるのか『設計の流れ』について触れてみます。大きな重量物をつるすハンガー(衣服をかけるハンガーと同様の働きをする)の設計を例にあげましょう。


(手順1)マンガ絵で意匠(デザイン)を練る。 
(手順2)3次元CAD(キャド)でCGモデルを作成する。
(手順3)コンピュータで、発生する応力やたわみの大きさを解析する。


〔図4〜6〕ハンガーの設計の流れ
      → http://washimo-web.jp/Information/Stress03.htm


まず、設計で最初にくるのは意匠(デザイン)です。設計者の頭の中のイメージをマンガ絵に描きます。寸法もマンガ絵の中に書き込んでおきます。3次元CADとは、CG(コンピュータグラフィックス)を使って設計するシステムです。解析結果から、デザインしたハンガーは、7,000N(質量約700kgの物体の重さに相当)の荷重をかけても、発生する最大応力は、30MPa に過ぎず、鉄鋼材料が破壊を始める応力値300MPa に対して、10倍の余裕(安全率)を持っていることがわかります。


             6.エピローグ


世界最大の超大型旅客機『エアバスA380』が、来年シンガポール航空によって初便運航されます。総二階建て4通路で座席数 555席といいますから、着陸するときのタイヤの衝撃は並大抵の大きさではないでしょう。超高層ビルや超大型旅客機などを確信をもって設計し、製作し、そして人々が平気で使用できているのは、上述したような解析技術による綿密な強度的裏付けがあらばこそのことです。

2005.11.30
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