コラム  ・音の効用   
− 音の効用 −
暴走族のように暴音をとどろかせて道路を走る車やバイクは、まったく迷惑なものです。取り締まりはできないものでしょうか。車やバイクは静かに走ってもらいたいものです。ところが、”過ぎたるは及ばざるがごとし”というように、静かすぎるのもまた問題のようです。
  
昨年(2008年)秋以来の世界同時不況で車が売れなくなったなかで、ハイブリッドカーだけは気を吐き、一人勝ちの感があります。同業他社は、『ハイブリッドカーだけがエコカーじゃない』などとCMに躍起になったりですね。ところが、そのハイブリッドカーにいま思わぬ問題が浮上しているそうです。
  
ハイブリッドカーは電気モーターを使っているため走行音が静かで、車の接近に気が付きにくく危険だという声が、視覚障害者などから多く寄せられているため、国土交通省は、自動車メーカーなどと共同で、車からメロディーなどの音を出す対策を検討していくことになったというのです(2009年7月2日、NHKニュース)。
  
インターネット上の書き込みをいくつか覗いてみると、歩行者が車に気付きにくいことから、ハイブリッドカーを運転する側も運転に慎重にならざるを得ないというような記事も見受けられます。この静寂ゆえの問題は、ハイブリッドカーだけでなく、静寂性が売りものの高級車や、次世代エコカーとして期待される電気自動車でも事情は同じでしょう。
  
せっかく騒音を出さない静寂な車なのに、わざわざ人工的に音を発生させるのもいかにも不合理だと思えますが、長年人間が培った経験や習慣や勘というものは、一朝一夕には変えられないということでしょう。果たして、静寂な車には、メロディーなどの音を出して発車や接近を知らせる装置が装備されるのでしょうか。
  
音の効用は、家電製品にも当てはまるようです。ある家電メーカが、ほとんど音を出さない掃除機を開発したところ、静寂すぎて掃除をしている実感が感じられないという欠点が浮上したのだそうです(2005年12月20日、NHKクローズアップ現代)。
  
冷蔵庫やパソコンの冷却ファンなどは、それ自体が動作して何か仕事をするというものではないので、音は静寂なほど良い(できれば音を全く出さない方が良い)ですが、例えば、洗濯機や炊飯器などでは、今すすぎをやっているとか、脱水に入ったとか、ご飯がもうすぐ炊き上がるなどと、その音によって状態を知ることができるという、音の効用もあります。音を無くするというよりは、いかに心地よい音に快適音化するかが、住宅メーカーや家電メーカーの課題のようです。
  
音と人間の心理の関係で面白いのが、駆け込み乗車と発車ベルの関係です。JR東海の調査によれば、電車の発車を知らせる発車ベルを10秒以上鳴らせると駆け込み乗車を増やしてしまい、9秒に短縮したところ、駆け込み乗車によってドアに挟まれる件数が減ったそうです(9秒より短いと乗り遅れる人がでる)(2007年4月7日、NHKニュース)。また、発車メロディーの省略や短縮が、駆け込み乗車の防止につながるという調査結果もあるようです。人間の心理と音、一筋縄ではいかない問題です。
  

2009.07.08  
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