コラム  ・八百屋お七 〜 惻隠の情   
− 八百屋お七 〜 惻隠の情 −
旅をすれば、思わぬところで思わぬ歴史や伝説などに遭遇することがよくあります。旅の醍醐味の一つと言えるでしょう。先月(2015年1月)訪ねた長野市の善光寺で遭遇した一つが『八百屋お七』の伝説でした。善光寺の山門手前右側に、『濡れ仏』と呼ばれる延命地蔵菩薩様が座っていて、説明板につぎのようにあります。


   
 
濡れ仏(重要美術品)
 
享保七年(1722年)に完成した、高さ 2.6メートルの延命地蔵菩薩座像。六十六部(日本全国を行脚する巡礼者)の供養のため、法誉円信が広く施主を募って造立したものです。江戸の大火の火元として処刑され、のちに歌舞伎や浄瑠璃の題材となった『八百屋お七』の冥福を祈り、恋人の吉三郎が造立したという伝説もあります。
濡れ仏(延命地蔵菩薩座像) 
   
天和2年(1683年)の暮れに江戸で死者3500名余と推定される大火が発生しました。この大火で焼き出された江戸本郷森川宿(現在の東京都文京区本郷)の八百屋の娘・お七は、親とともにお寺に避難しました。
 
寺での避難生活のなかでお七は、寺の小姓と恋仲になります。やがて店が建て直され、お七一家は寺を引き払って新居に帰ったのですが、寺の小姓への断ち切れない想いが募るばかりのお七は、もう一度自宅が燃えてしまえばまた寺で暮らせると考え、自宅に放火したのでした。
 
幸い火はすぐに消し止められ、ぼやですみましたが、お七は放火の罪で捕縛され、市中引き回しの上、火あぶりの刑に処されました。このお七の事件は、わずか3年後に出版された井原西鶴の『好色五人女』に取り上げられ、広く世間に知られることになりました。
 
『好色五人女』で西鶴が設定した恋人の名は吉三郎。歳は、お七、吉三郎ともに16。お七が新居に戻ってからのある大雪の日、吉三郎は土筆(つくし)売りに変装して八百屋を訪ね、お七の両親が不在になった間に二人は逢瀬を楽しむのでした。
 
その後吉三郎になかなか会えないお七は、思いつめ、会いたさ一心で自宅に放火しました。お七が火あぶりになったとき、吉三郎は病の床にあり、お七の出来事を知りません。お七の死後 100日になって起きれるようになった吉三郎は、お七の死を知って悲しみ自害しようとしますが、お七の両親や人々に説得されて吉三郎は出家し、お七の霊を供養するのでした。
 
『好色五人女』に続いて、それぞれのあらすじで文芸物や演劇物、落語などが多く書かれましたが、異説が多く、実在の人物としてのお七についてはほとんどわかっておらず、史実は不確かだそうです。
 
ただ、この八百屋お七の物語に世間が大いに惻隠の情(そくいんのじょう)を感じてやまなかったと言うことだけは確かなようです。お七や吉三郎のお墓が、あちこちにあるそうです。善光寺の濡れ仏の伝説もその一つでしょう。
 
〔お七の墓〕
 
・長妙寺(日蓮宗、千葉県八千代市)
・円乗寺(天台宗、東京都文京区)
 
円乗寺にはお七の墓が3基ある。一つは寺の住職が供養のために建てたもの。一つは寛政年間に中岩井半四郎がお七を演じ好評だったので建立。さらに、一つは近所の有志の人たちが 270回忌の供養で建立(1)
 
・岡山市北区御津町
 
吉三郎は、お七の遺骨を持って供養の旅に出て、野々口・小山村で亡くなりました。村人はここに二人の墓を建てたということです。左側の三角形のものがお七の、右側の長方形のものが吉三郎の墓です。と御津町教育員会の案内板にあるそうです(2)
 
〔お七地蔵〕
 
・密厳院(真言宗、東京都大田区大森北)
・大円寺(天台宗、目黒区下目黒)
 
吉三郎は出家して西運を名乗り、大円寺の下にあった明王院に身を寄せたという。西運は明王院境内に念仏堂を建立するための勧進とお七の菩提を弔うために、目黒不動と浅草観音に1万日日参の悲願を立てた。往復10里の道を、雨の日も風の日も、首から下げた鉦しょうをたたき、念仏を唱えながら日参したのである。かくして27年後に明王院境内に念仏堂が建立された。しかし、明王院は明治初めごろ廃寺になったので、明王院の仏像などは、隣りの大円寺に移された(3)
 
〔吉三郎の墓〕
 
・仏谷寺(浄土宗、島根県松江市美保関町)
 
お七の処刑後、吉三朗は発心して西運と称し江戸より巡礼の旅に出発。各地にお七の地蔵を建てながら、元文2年(1737年)に70歳で亡くなり、それを葬ったのがこの地であるといわれているのです(4)
 
・延命山関川庵(曹洞宗、静岡県島田市)
・秋田県雄勝郡羽後町
・鰐淵寺(島根県出雲市別所町)の参道沿
 
【ことば】
惻隠の情(そくいんのじょう)=『惻』は、同情し心を痛める意。『隠』も、深く心
を痛める意。すなわち、哀れに思う気持ち。可哀想であると感じる心持ち。
 
【参考にしたサイト】
(1)文京区 円乗寺(えんじょうじ)
(2)風に吹かれて:八百屋お七の墓
(3)歴史を訪ねて 大円寺(目黒区公式ホームページ)
(4)仏谷寺(ぶっこくじ)/八百屋お七の恋人の墓
(5)八百屋お七 - Wikipedia
 

2015.02.11
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