コラム  ・鬼平犯科帳 〜 むかしの男   
− 鬼平犯科帳 〜 むかしの男 −
先日の日曜日(2009年7月19日)は、カラオケ教室の年に一度の発表会でした。司会も音響も照明もプロの方が担当するちゃんとして舞台で、すぎもとまさとさんの『吾亦紅(われもこう)』をどうにか歌い切りました。観客は、 400人収容の町の中央公民館に6〜7割の入りでした。
  
夕方から、20数人が集って郷土料理店のビアガーデンで打ち上げ会でした。その席で、話はちょっとした映画談義となりました。まず話題にあがったのが、新藤兼人監督の1960年作品で、乙羽信子、殿山泰司主演の『裸の島』。瀬戸内海の一孤島に暮らす4人家族の物語で、無声映画ではないけど、一切の台詞を廃した実験的な意欲作品。
  
そして、中村吉右衛門の『鬼平犯科帳』や勝新太郎や『座頭市』の話などで盛り上がりました。鬼平犯科帳といえば、今年(2009年)も7月17日、『金曜プレステージ 鬼平犯科帳スペシャル〜雨引の文五郎』(フジテレビ系)で、中村吉右衛門の『鬼平』が帰ってきました。ゲストの國村隼、伊東四朗、賀来千香子さんらの演技も良かったです。
  
鬼平犯科帳の魅力は何といっても、池波作品のストーリーのおもしろさと中村吉右衛門さん演じる鬼平のかっこよさでしょう。一番印象に残っている作品を上げるとすれば、第19話『むかしの男』(1989年12月20日放映)でしょうか。鬼平のふところの広さ、かっこよさが存分に発揮された作品でした。
  
平蔵が出張で役宅を留守にしていたある日、平蔵の妻・久栄(多岐川裕美)の前に、むかしの男が現れます。久栄が17歳の時、久栄を捨てた隣家の近藤勘四郎という旗本で、いまは盗賊の手下に成り下がっている男です。昔のスキャンダルをネタに脅迫して、火盗改方に囚われている仲間を牢から脱出させようともくろんでいるのです。その画策は結局失敗し、平蔵がその男と対面することになります。
  
男が「久栄は俺が初めての男だったんだ」というようなことをいうと、平蔵は「そんなことは百も承知だ」といって笑い飛ばします。「久栄を女にしたのは俺だ」という男に対して、「お前は久栄をおもちゃにしただけだ。久栄を本当の女にしたのはこの俺だ。女は心から愛さないといけねぇ」と平蔵。それを物蔭で聞いていた久栄が涙ぐみます。
  
平蔵が久栄を妻に迎えるに至ったいきさつと結婚初夜の情景が原作本『鬼平犯科帳3』(文春文庫)に書かれてあります。略中で部分引用させて頂きましょう。
  
「いやもう、むすめがひどい男にだまされてな」と大橋与惣兵衛がこぼしたのである。
「もう久栄も、嫁にはゆけぬ」と、こぼしぬく与惣兵衛へ、事もなげに平蔵は、
「そのようなことはありますまい」
「よろしければ、私がいただきましょう」
「え・・・・?」
「むすめは、傷ものだぞ」
「私だって、傷ものの点ではひけはとらない、おたがいさまですよ」
  
久栄が平蔵の妻になったとき、
「このような女にても、ほんに、よろしいのでございますか・・・・?」
「このような女とは、どのような女なのだ?」
「あの、私のことを・・・・」
「きいたが、忘れた」
「ま・・・・」
  
「久栄」
「はい・・・・」
「お前は、いい女だ」
「ま・・・・」
「前から、そうおもっていたのさ」
「あれ・・・・ああ・・・・」
  
中村吉右衛門の『鬼平犯科帳』は、平成元年から平成10年までの10年間に 133本が放送され好評を得ました。池波正太郎氏の原作が残り少なくなったため、一応終了の形となっているのが残念ですが、DVDで過去の作品を楽しむことができます。
   

2009.07.22  
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