コラム  ・最近の作句から 〜 菜殻火ほか   
− 最近の作句から 〜 菜殻火ほか −

自給自足が生活の基盤であった昭和30年代(1955年〜65年の頃)の農家では、各自で米の裏作として油菜(アブラナ)を栽培し、油と交換したり現金収入を得たりしていた。その頃を回想して詠んだ句である。
 
   菜殻火の匂ひ纏ひて帰り来る
 
油菜を刈り干しして菜種を取った後の菜種殻を田んぼで焼くのである。その火が菜殻火(ながらび)である。乾燥しているのでよく燃える。収穫後の作業であるから夕方に行われることが多かった。6月頃の農村の風物詩の一つであった。
 
   終日の機上暮らしや代田掻き
 
機上といえば飛行機が想像されるが、この句の機上はトラクターである。最近のトラクターは大型化し、運転席は、風や騒音、ホコリの流入を遮断し、エアコン、ヒーター、冷蔵庫、オーディオシステムなどを装備したキャビン仕様になっている。
 
そして、稲作に従事する人の高齢化や減少によって、稲作は認定農業者ともよばれる地域の担い手が、各農家の稲作作業を一手に引き受けて行うようになった。担い手となった農業者は、代田掻きを終日、何日も続けて行うことになる。
 
   さなぶりや見つからぬ靴の片方
 
「さなぶり」とは、田植えを終えた祝いのことである。さなぶりの「さ」は、田の神を意味し、「桜」の「さ」、「早苗」の「さ」にも通ずる。田植えの始まる頃山から下りてきて、田の神として農事を見守ってくれた神様を山にかえす祝いである。
 
田植えの労をねぎらっての宴席は、酔いの勢いで混乱の場となる。だれかが履き違て帰ったのか、はたまた誰かが床下にでも蹴飛ばしたのか、要するに靴の片方が見からないのである。そんな豪快なさなぶり供養も最近では見られなくなった。

2023.06.28
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