雑感  ・金は天下の回りもの   
− 金は天下の回りもの −
『金は天下の回りもの』という諺(ことわざ)があります。江戸時代のこと、江戸っ子が割りの良い仕事に有りついて、久し振りに財布が潤っています。そこで、仲間を誘います。『今夜はドーンと行こうぜ!』『俺なんざぁ〜、宵越しの銭など、持ちゃしね〜や!』『なーに、金は天下の回りものって〜ぇことよ!』
 
金銭は水もの。今はお金がなくても、そのうち回ってくるから悲観することはないよ、という励ましの意味を込めて使う場合がありますね。江戸時代当時は、金はなくても、倉廩(そうりん=穀倉)満つれば礼節を知り、衣食足れば栄辱を知る。上の会話には、お金は暮らしの潤滑油というようなニュアンス(意味合い)がありますね。
 
しかし、貨幣経済が極度に発達した昨今は、お金がなければ何も手に入れられないし、何もできません。まさしく、お金は血液。潤滑油などと言っておれる余裕はありません。そして、世間には太い血管もあるけれど、庶民の血管はますます細るばかり。
 
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原始時代、山野に暮らす人たちは狩りをして、海辺に暮らす人たちは漁をして、それぞれ自給自足の生活をしていました。そのうち、今まで食べたことのない美味しい食べ物があることを知ると、それを食べてみたいと思うようになります。そこで、猪肉(ししにく)と魚を持ち寄って交換するようになりました。いわゆる、『物々交換』です。
 
ある日、山野の人がたくさんの猪肉を持って海辺にやってきました。ところが、あいにく、海辺では海が時化(しけ)て漁が出来ませんでした。猪肉が欲しいのだけど、猪肉と交換する魚がありません。一方、山野の人は、いまさら猪肉を持ち帰っても腐るばかりで仕方ありません。
 
そこで、海辺の人たちが大切にしている美しい貝殻のいくつかと猪肉を交換することになりました。
 
今度は、海辺の人が魚をたくさん持って山野にやってきましたが、山野は雨天が続いて狩に出れなかったので、交換する猪肉がありませんでした。そこで、山野の人はいつかの貝殻と交換して魚を得ました。
 
交換の仲立ちをするもの、すなわち『貨幣』(この段階では、正確には物品貨幣)の誕生です。生活圏の中で、貝殻が物品貨幣として定着するようになると、とても便利になりました。猪肉や魚は腐りますが、貝殻は腐らないので富の保存が可能です。持ち運びにも便利ですし、適宜分けて使えます。猪肉と魚だけでなく、いろいろな物と交換できます。
 
物品貨幣が出現して便利になりましたが、それでも人々にとって大切なものは、自然に働きかけ自然の恵みを得ながら暮らす山野や海辺での日々の生活でした。貨幣は、生活のための『手段』に過ぎませんでした。それが、昨今は、万事、金がものを言う世の中。主客転倒して、お金を得ることが『目的』の生活になっているのではないでしょうか。
 
そして、お金の有るところでは、お金が自己増殖を繰り返し、お金がお金を生みます。1000万円が7年間で2500万円に膨れる一方で、 100万円預けて普通預金の利子が年間たったの20円。同じ価値の仕事をしても、正社員と派遣社員とでは対価が違う。不公平感がつのるばかりです。
 
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このよう中で、最近日本でも注目され出しているのが『地域通貨』あるいは『コミュニティ通貨』と呼ばれているものですね。
 
現行の法定通貨(日本円、米ドルなど)では、表現することが困難な社会的価値やコミュニティ独自の価値を交換・流通させるために、特定の地域内、あるいはコミュニティ内において利用される通貨のことを言います。わが国では様々なボランティア活動に対して支払われる地域通貨のことを『エコマネー』とも呼ぶようですね。
 
例えば、1991年にニューヨーク州イサカでは、コミュニティ通貨『イサカアワーズ』(IthacaHours)が設立されました。
 
老人のケアやベビーシッター、マッサージや診療、弁護士活動、自動車の修理や家の補修などのサービス業のほか、農産物や雑貨の直販、小売店など、いろいろな職業が載っている電話帳(会員リスト)があります。仕事をしたい人は、先ず、運営事務局に申し込んで、電話帳に自分の得意な仕事の種類ごとに名前を登録してもらいます。
 
仕事の依頼があって、仕事をすると、代金として1時間ごとに『1アワー』ずつ通貨がもらえます。すでに通貨を持っている人は、この電話帳を見て、使い道を考えます。
 
イサカの町では、地元系スーパーなどの支払いのほか、レストランや映画館などでも、この通貨が使えるし、地元の信用金庫では、住宅ローンなどの返済やアパートの家賃支払いにも使えるそうです。
 
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さらに、インターネットコミュニティ上では、使用価値が金銭を介さずに流通されるという、かつてなかった新しい動きが始まっています。
 
私たちは、ホームページ上に公開された写真や絵画、音楽あるいは著作物などを無償で見聞きでるばかりでなく、メーラーやファイル転送ソフト、データ圧縮解凍ソフト、動画や音声を扱うためのソフトなど、多くのフリーソフト(無料で利用できるソフトウェア)をダウンロードして利用していますね。幣メールマガジンも無償で配信され、無償で読んで頂いています。
 
今まさに、高度貨幣経済の時代ですが、一方で『地域通貨』やインターネットコミュニティでの新しい動きなど、価値あるものの交換において、隙間なく覆っていた貨幣システムが少しずつ変化を見せ始めている時代でもあるように思います。
 

2006.07.12
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