レポート  ・民芸について   
− 民芸について −

10月の末に、大分県日田市源栄(もとえ)町皿山の小鹿田焼(おんたやき)の窯場を訪問し、昔ながらの伝統的家内工業で作られている小鹿田焼の素朴な味わいに触れてきました。小鹿田焼訪問は、また「民芸」について考える機会ともなりました。(→ ◆旅行記・小鹿田焼を訪ねて−大分県日田市 )


「民芸」という言葉と「民芸運動」


お土産に民芸品を買う、民芸調度品、はたまた民芸酒場など、「民芸」という言葉は、今や日常的に使う日本語として定着していますが、誰が作ったとも知れない古い言葉ではなく、大正時代に作られた比較的新しい造語なのです。


東京帝国大学で哲学を学び、雑誌『白樺』創刊の同人でもあった柳宗悦(やなぎ・むねよし)〔1889〜1961年〕は、朝鮮の陶磁器の美しさに触れ、それらの作り手が、名も知られていない社会的な地位もない、無名の工人だったことに気づきます。それは、日本の工芸においても同じことでした。無名の工人たちが、あえて美しいものを作ろうと意図することもなく、ただ生活の用のため作り出す雑器の中に、健全で活々とした美しさを認め、柳は感動します。なのに、それらの工芸品はまったく評価されるどころか、むしろ蔑(さげず)まれていることに心を傷めます。


当時、人手のかかった高価な工芸品を「上手もの」(じょうてもの)と呼び、あまり手を加えない工芸品を「下手もの」(げてもの)と呼んでいました。1925年(大正14)の秋、濱田庄司・河井寛次郎と共に、木喰(もくじき)上人の足跡探訪のため和歌山県を訪れていた柳宗悦は、旅の車中で、これまで下手ものと呼ばれて顧みられることのなかった、民衆の生活用具である食器・家具・衣類などの民衆的工芸を「民芸」と呼ぶことにしようと決めました。「民芸」ということばの誕生です。


翌年の1926年(大正15)、柳宗悦は、美しい民芸品の蒐集(しゅうしゅう)と展示、よき伝統的手工業の保存と育成、新しい生活工芸品の制作と普及、出版活動を主な活動内容とする「民芸運動」を発足させます。民芸運動には、柳のほかに河井寛次郎、濱田庄司、富田健吉、棟方志功、英国人バーナード・リーチらが参加しました。


民芸の美


柳宗悦は、民芸の品々の特徴として、(1)無銘の品である、(2)作家の作品ではなく、職人の作である、(3)実用品である、(4)大量生産の品である、(5)美しさをとりわけ狙って作られたものではない、の5つをあげています。


それらの特徴をそなえた民芸品が、なぜ美しいのか。柳宗悦は、民芸品が美しい理由として、まず「用の美」をあげています。日常で使われるからこそ美しいといいます。日常生活における人とのふれあいの中に美が生まれると。そして名もない民衆の「無心」から生まれた美、余暇でなく労働の中から生まれた美であるとも言っています。哲学や宗教にも造詣の深かった柳は、浄土真宗の教える「凡夫成仏(ぼんふじょうぶつ)」(煩悩にとらわれて迷いから抜け出せない衆生こそ、阿弥陀仏によって救われる)という教えに通ずるとも述べています。


また、「職人の作業には、職人の意識的な努力とは別に長い伝統が関与している」と認識し、このことを「他力」と考え、「民芸品は、自力による作品というより他力がつくる品物という方がふさわしい」と柳宗悦は考えました。


「民窯」と「官窯」


小鹿田焼民陶祭(大分県日田市)、白壁の町並みと民陶を訪ねて(福岡県吉井町〜小石原町)、民陶火まつり(佐賀県武雄市)、苗代川民陶館(鹿児島県東市来町)など、「民陶(みんとう)」という言葉があります(特に、九州の窯場で多く使われているようです)。江戸時代当時の藩御用達である「官窯(かんよう)」に対して、民衆が主体となって雑器などを生産した窯のことを「民窯(みんよう)」と呼びます。そして、「民窯」で作られた陶磁器を「民陶(民芸陶器)」と呼んでいます。


民陶には、官窯の焼き物の「華麗」や「豪華」「繊細」などといった特徴とは対照的な、素朴で質実剛健、健康的な美しさを見出すことができます。これらの民陶は、骨董や高価な美術工芸品ではなく、あくまでも安価で、日常の生活に用いる実用品なのです。(※もちろん、あえて「民陶」とうたっていなくても、「民窯」で作られた、日常の生活に用いるための陶磁器は「民陶」ということになります。)


小鹿田(おんた)は、日曜雑器すなわち民陶の窯場です。1931年(昭和6)に、柳宗悦がこの地を訪れて、紀行文『日田の皿山』を発表して、世に知られるようになりました。また、1954年(昭和29)には、バーナード・リーチがここで、制作し全国的にその名が広まりました。小鹿田焼には、いわゆる「作家」はおらず、10軒の窯元で組合をつくり、品物には個人名や窯名を表わす判は押してありません。


民芸品の実用〜美しく豊かな日常生活を


私たちは、藩御用達の窯で焼かれた「華麗」で「繊細」な焼きものや素晴らしい美術工芸品に魅せられます。そして、可能な範囲でそれらを買い求め、生活の潤いにしてもいます。


いっぽう、柳宗悦が提唱した「民芸運動」の理念を今日の生活に生かすとすれば、比較的安価で入手し易い現代民芸品を私たちの一般家庭で実用し、家庭を美しくし、日常生活を楽しく、豊かにしていくことだと思います。これからも我が国の伝統工芸文化を継承して、多くの民芸品が作り続けられて欲しいと思います。


【参考になるサイト】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
◆日本民芸運動
  → http://www.hanamori.co.jp/mingei.html
◆民芸運動と民家
  → http://www1.ocn.ne.jp/~rakutei/mingei.html
◆益子焼今昔
  → http://www.kougei.or.jp/crafts/0404/special/history.html
◆日本民藝館
  → http://www.mingeikan.or.jp/
◆柳宗悦の生涯
  → http://www.mingeikan.or.jp/Pages/soetu.html
◆小鹿田焼 民陶祭 →
 http://www.pref.oita.jp/14003/yolozu/event/000530/ondamintou.html
◆白壁の町並みと民陶を訪ねてコース(約8時間)
 → http://www.acros.or.jp/hiroba/ruto/ha_01a.html

                                      (文中、敬称略)


2003.11.12 
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