雑感  ・見えるもの、見えにくいもの   
− 見えるもの、見えにくいもの −

地元鹿児島県のことで恐縮ですが、昨年度は、高校サッカーで鹿児島実業高校(鹿児島市)が全国優勝し、春の選抜高校野球では神村学園高校(串木野市)が準優勝しました。競泳では、鹿屋体育大学の柴田選手が五輪大会で金メダルを獲得し、鹿屋市出身の女子プロゴルファー横峰さくら選手も頑張っています。


部活動に励む県内の中高校生や大学生たちにどんなにか励みになったことでしょうか。スポーツはショー的な要素があります。全国大会に出場できれば、試合の様子がマスメディアで全国に伝えられ、多くの人に感動を与えることができます。


全国大会でなくても地区の予選大会でも、良いプレーをすれば、拍手喝采を浴びます。観客の声援は、選手にとって何よりの励みになります。きょうの自分よりさらに素晴らしいプレーのできる明日の自分を思い描きながら、選手たちは夏の暑さにも、冬の寒さにもめげず過酷な練習を乗り切っていきます。


大会で活躍して喝采を浴びる自分や、あるいはまだ力不足でエラーをして恥ずかしい思いをする自分が見えるのです。見えるから目標が設定でき、そこに向かう気力や勇気が沸いてきます。


一方、中高校生や大学生の本分である学業はどうでしょう。勉強にはショー的な要素がないので観客はいません。数学の授業で方程式が解けたからといって観客が拍手喝采してくれるわけではありません。方程式が解けなくても、取りあえずは面前で恥ずかしい思いをすることもないでしょう。


授業中、眠りこけている学生がいます。彼は昨夜のアルバイトが深夜まで及んだので寝不足です。予習復習はそこそこに学校が終わればアルバイト先に直行し、そこで仕事着に着替えてアルバイトに精を出す高校生がいます。


『お願いだから、授業中眠らないでノートをきちんととって授業を受けて下さい。そうしたら、授業の終わりにこの一万円札をあげましょう』といって、一万円札を机の上にポンと置きます。そうしたら、一万円札を凝視し続ける人はあっても、眠る人はいないでしょう。


予習復習をして来た人には、時給 2,000円で宅習代を出しましょうということになると予習復習にも勤(いそ)しむでしょう。授業を受けることの、予習復習をすることの成果物が目に見えるからです。


本来、授業は一万円の、予習復習は時給 2,000円の、あるいはそれ以上の価値があるのにそれが見えにくいのです。だから、モチベーション(動機)は希薄であり、気力や勇気が沸きにくいのではないでしょうか。


今の子供たちには夢がないと良く言われますが、グローバル化の中で高齢化が進み、若い人たちが活躍する場はむしろ広がっているように思います。環境問題、人間性の回復、地域紛争、二極化など、これからいろんな局面でますます人間の英知が試される時代になり、しっかりした学力、素養、見識を身につけることが必要とされます。


昨年(2004年)経済協力開発機構(OECD)が実施した国際的な学習到達度調査によると、日本の子供たちの学力低下が明らかになっています。それを受けて、ゆとり教育を見直す動きもあるようですが、原点に帰ってまず勉強することのモチベーションをしっかり身に付けさせて欲しいと思います。


そして、自分の将来をしなやかに想像する力、夢見る力、見えにくいものにも目を向け見抜こうとする力、見えない中で気力を注ぎ勇気を出す力、そうした力を養って欲しいと思います。

2005.05.25  
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