コラム  ・マニ車   
− マニ車 −
聖徳太子建立の寺の一つで、日本における本格的な仏教寺院として最古のものとされる大阪市天王寺の四天王寺。その石鳥居を潜って、西大門(極楽門)の手前右に弘法大師修行像が建っています。弘法大師は若き日、西大門で日想観(西に沈む太陽を見て、極楽浄土を見る修行)をされたといいます。
 
その弘法大師修行像の前で見かけたのが、『一回一誦』 (いっかいいちじゅ) です。人間の腰よりちょっと高い高さほどの石碑が立てられ、そのてっぺんに手で触れて回す円盤が取り付けられています。円盤の周面には般若心経が刻まれており、『一回まわすと、般若心経を一巻となえたことになります』という説明書きが石碑側面に彫られています。
 
国民の心理的な幸せなどを指標とする『国民総幸福量』( GNH)を重視する国として知られるブータン王国で働く知人が3年前に送ってくれた写真で知った『マニ車』(マニぐるま、摩尼車)を思い出しました。
 
マニ車は、主にチベット仏教で用いられる宗教用具で、転経器(てんきょうき)とも呼ばれます。円筒形をしており、側面にマントラ(仏に対する讃歌や祈りを象徴的に表現した言葉)が刻まれ、内部にはロール状の経文が納められています。右回り(時計回り)に回転させると、回転させた数だけ経を唱えるのと同じ功徳があるとされます。
 
赤ちゃんをあやすガラガラぐらいの大きさの携帯用から、大人の力でやっと回せるくらいの大きなもの、あるいは寺院などに設置されている数メートルにも及ぶものまで、さまざまの大きさのものが、ブータン国内のいたる所にあるそうです。
 
ブータンの人たちは、それを回しては、『亡くなった人たちがよりよい境遇に生まれ変わるように』、そして『生きとし生けるもののすべてが幸福でありますように』と祈ります。
 
水力で自然に回るマニ車もあるそうです。滝では水の落下を利用したマニ車が、あるいは森を流れる小川の渓流のあちこちではた小さな小屋のような建物の中に据えられたマニ車が昼夜回り続けます。しかも、一つや二つではないそうです。水力を利用したマニ車は、一回転ごとに鈴を叩いて音を出します。
 
ブータンの写真には、万国旗よろしく一本のロープに結び付けられた『ルンタ』と呼ばれる青、白、赤、緑、黄の5色の旗が風にたなびいている風景写真もありました。旗には経文が印刷されていて、風に一回たなびけば、経文を一回読んだのと同じ功徳があるのだそうです。
 
水力や風力を利用したマニ車やルンタ。人間自らが回すという行為の大切さもさることながら、できるだけたくさん回り、できるだけたくさんたなびくことが肝要ということでしょう。ネパール地震から1ヶ月が過ぎました。ネパールで被災された人の冥福を祈り、一日も早い復興を願うマニ車やルンタが今日も回り、たなびき続けていることでしょう。 
 
『一回一誦』 (いっかいいちじゅ) (四天王寺で)
 『一回一誦』(四天王寺で)
ブータンの『マニ車』
風にたなびく 『ルンタ』(ブータンの首都ティンプー)

2015.06.03
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