レポート  ・知覧の水車からくり   
− 知覧の水車からくり −

鹿児島県の知覧は、特攻の町、武家屋敷群の残る町、知覧茶の町。そして、7月になると見に行きたくなる伝統行事があります。毎年7月上旬に、豊玉姫神社の六月灯(旧薩摩藩領内で行われてきた夏祭)で上演される「水車からくり」です。


豊玉姫神社の前を流れる下郡北(しもごおりきた)用水路の上にお尻をちょっと突き出して蹲踞(そんきょ)した格好で、神社境内入口に建てられている木造の小屋が『水からくりやかた』です。その舞台で、浄瑠璃人形に似た身長30cm前後の人形たちが、精巧な仕掛けと用水路の水車で得た動力によって、飛び上ったり、手足を動かしたりして物語を演じるのです。


・『旅行記 知覧(3) − 水車からくり』を見る
     → http://washimo.web.infoseek.co.jp/Trip/Karakuri/karakuri.htm


豊玉姫神社の水車からくりがいつ頃から始まったのか、またその起源などについては、明確な記録がないようですが、明治維新以前から存在していたと言われます。下郡北用水路は、江戸時代中期の安永9年(1780年)に築造され、20町歩を灌漑(かんがい)したと言われていますので、豊玉姫神社で水車からくりが始まったのは、江戸時代中期から明治維新以前までの間ということになります。


精巧な動きを実現するための仕掛けや人形の製作には、木工・建築の卓越した技能や手先の器用さを必要としたでしょう。


薩摩半島は、職人の宝庫であると言われてきました。私たちは、知覧の武家屋敷通りで「知覧型二ツ家」と呼ばれる茅葺(かやぶき)の家を見ることができますが、この建物に見られるように、「知覧大工」の集団は、その卓越した技能によって、独特の建築技術を発展させたと言われています。また、知覧から車で約20分のところには、川辺(かわなべ)仏壇・仏具で全国的に有名な川辺があります。


・『知覧型二ツ家』を見る
        → http://www.washimo.jp/Trip/chiran-yashiki/yashiki.htm


薩摩藩は、鶴丸城(鹿児島市)を本城とし、領地を外城(とじょう)とよばれる113の行政区画に分けて統治しました。知覧もその典型的な行政区画の一つで、武士は平素は農業に従事しながら、いざと言う時に武士として出動したのです。


知覧の伝統工芸品に『知覧傘提灯(かさちょうちん)』があります。これは、薩摩藩下級武士が手先の器用さを活かして内職として考案したのがその始まりだと伝えられています。また、知覧の武家屋敷では、男子の初節句に簡単な手回しのからくりが行われていたといわれます。


・『知覧傘提灯』を見る
     → http://www.kagoshimakenjinkai.ne.jp/motto/chiran/meisan.htm


そうした土壌や雰囲気を背景にして、知覧の水車からくりは始まったのでしょう。日露戦争で中断した後、大正4年(1925年)に復活しますが、知覧に悲しい特攻隊の歴史をもたらすことになる太平洋戦争の激化とともに、水車からくりはその姿を消して行きました。


そして、昭和54年(1979年)に保存会が結成され、再び水車が回ることになりました。保管されていたからくりの部品や人形の断片などを手掛かりにして、難しいからくりの復元がなされたそうです。今では国から国選択無形民俗文化財「薩摩の水からくり」、県から有形民俗文化財「知覧の水車からくり」の指定を受け、知覧の代表的な行事として根付きつつあります。


田植え時季の農繁期に、人形や仕掛けを考案して製作し、動きが完全になるまで調整するのは労力と時間が掛かり、並大抵のことではないと思います。からくり人形の美しさや面白さへの素直な感動と芸術への関心、そして年に一度、六月灯の頃に素晴らしい芸能を見て欲しいという思いが、人々のからくりの製作に没頭する原動力になっているに違いありません。


これまで、武蔵、忠臣蔵・討ち入り300年、牛若丸と弁慶、花咲かじいさん、かぐや姫、巌流島の決闘、那須与一・扇の的、などの出し物が上演されてきました。今年は7月9日(金)、10日(土)に行われ、出し物は、日本昔話『桃太郎』でした。テープのナレーションが流れる中で、13人のキャラクターがそれぞれの動きを繰り返します。


観客席の一番前で、はしゃいでいる子、興味有り気に見入っている子供たちの光景が印象的でした。子供たちは、バーチャルでない手作りの温かみのあるからくり人形に、アニメやCGとは一味違った面白さを覚えているようでした。そして、水車からくりは、ふるさとの風物詩としていつまでも人々の心にとどまることでしょう。


【備考】
・現地で頂いた案内チラシ(知覧水車からくり保存会・知覧町・知覧町教育委員会) を参考にしました。
・知覧については、下記の2つの旅行記が参考になります。
 ◆知覧(1) − 薩摩の武家屋敷群
       → http://www.washimo.jp/Trip/chiran-yashiki/yashiki.htm
 ◆知覧(2) − 特攻の町
      → http://www.washimo.jp/Trip/chiran/chiran-heiwa.htm


2004.07.21  
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