レポート  ・かまどの煙 〜 『あなたの中のリーダーへ』より   
 
− かまどの煙 〜 『あなたの中のリーダーへ』より −
世界銀行副総裁として、途上国の貧困と闘い、巨大組織の改革に取り組んで来た西水美恵子さんの新刊『あなたの中のリーダーへ』(英治出版)が今年(2012年)5月15日に発売になりました。この本もまた、名著『国をつくるという仕事』と同様、表紙を開いた”はじめに”の冒頭から、読む人を惹きつけます。
 
貧困の体験学習のためホームステイに訪れたパキスタン北部カシミールの離村の、今日の私たちからはとても想像できない生活の一端が描写されています。
 
  「早朝、日の出前、まず水汲みに出る。
   泉まで一時間裏山を登り、また一時間かけて下る」
 
  「昼前、また水汲みに山へ入る。
   一時間山を登り、また一時間かけて下る。
   山の日差しは強いから、昼の水汲みはつらい」
   
  「日が落ちる前、また水汲みに山に入る。
   疲れているから夕方は時間がかかる」
 
  「くる日もくる日も、同じことの繰り返し。
   気が狂ってしまうかもと思う時さえある。
   これは人間が営む生活ではない。
   動物のように、ただ体を生かしているだけ・・・・」
 
さらにショックを受けたのが、”かまどの煙”のことでした。
 
貧困解消の使命感に欠く世銀の危機をハートでつまむには、師と仰ぐブータンの前国王、ジグミ・シンゲ・ワンチュク雷龍王四世の行幸(ぎょうごう)を手本にする以外、術がないと思った西水さんは、家族扱いの貧村ホームステイ体験を部下と共有し、改革の原点にしようと決めました(『雷龍王の教え 危機感の力』より)。
 
インドの内陸奥深い在所。わらぶき屋根の土塀の農家。真っ暗な家の中の土間で、かまどからちらちら薪の火が漏れています。猛煙の中で背の乳飲み子をあやしながらくるくる働く人。乳飲み子の小さな咳(せき)が止まらない。苦しそうに泣く子の背を叩きながらその人も咳きこむ。
 
かまどの煙が毎年 200万人の女子供を世界中の途上国で殺している。無煙かまどを備えるだけでも、毎年一人あたり5000円から一万円の医療費が節約される。室内汚染は殺人魔。西水さんのこの問題に焦点をあてた、医学者や、エコノミスト、エンジニアなど多分野から集まった専門家チームが、情熱をひとつにして、電力開発事業の社会利益に対する判断基準を塗り替えて行きました。
 
その情熱の原点は、かまどの煙に潜む魔を自分の体で知った現場体験でした。『すべきことをどう捉えるか。その違いが組織を変え、国を変え、地球を変え、人の命さえ救う』と(『人の命にかかわること』を要訳)。
 
〔用語
行幸(ぎょうごう)=天皇が外出すること、みゆき。
 
国民総幸福量という公共政策哲学の発案者としても知られるブータンの前国王、ジグミ・シンゲ・ワンチュク雷龍王四世は、一人でも多くの民の心を聴こうと、在位34年間、精力的に国中を歩き回りました。人口約70万人の国民の大半が車道から徒歩で半日から数週間の在所に住んでいます。酸素の薄い大気にあえぎ、雨期には蛭(ひる)に血を吸われ、蚊や蚤虱(のみしらみ)に悩みながら、国王は自らに野宿を強いて歩き続けました(『歩き回って・・・・』より)。
 
【備考】
(1)『あなたの中のリーダーへ』(西水美恵子・著、英治出版、2012年5月第一刷発行、定価\1600+税)の書籍紹介が下記のページにあります。
    → http://washimo-web.jp/BookGuide/BookGuide7.htm
(2) 西水美恵子さんのプロフィールは下記のサイトなどにあります。
    → http://www.eijipress.co.jp/sp/kuni/author.php
 


  2012.06.06
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