コラム  ・水遣り 〜 いちご考   
− 水遣り 〜 いちご考 −
北薩摩地方に住む著者の、広いだけが取り柄の旧農家の自宅の庭には、園芸を趣味にする連れ合いが、 100個を超える鉢やプランターをあちこちに配置しています。洋ランや観葉植物などを加えると、鉢の数は 200個に及びます。
 
この3月末に常勤嘱託の仕事から退いて、4月から家にいることが多くなった著者に、夕方それらの鉢やプランターに水を遣る役が回ってきたのです。わが家では敷地内にボーリング井戸を掘って、ポンプで地下水を汲み上げて使っているので、水には事欠きません。
 
水道の蛇口に散水ホースを付けて水遣りすることも出来ますが、葉に水がかかると病気発生の原因になり、また水の勢いが強すぎると鉢土が跳ね返って葉に付くなどするというので、一々蛇口まで往復しながらジョウロを使って水遣りしますから、ゆうに1時間以上かかります。
 
バラやペチュニア、鉄線、ゆりなどの花に混じって、数箱のプランターにイチゴが植えてあります。肥料がたっぷり与えられているのでしょう、葉が大きく、繁々と茂っています。連れ合いにイチゴを植えた訳をたずねると、『食べるため』といいますが、今まで食卓に上がったことがありません。
 
というのは、青い実が膨らんで赤くなり、さも美味しそうに熟れた頃になると、見計らったように何者かがやってきて食べてしまうのです。葉を上手にかき分けて、熟れた実だけを食べています。
 
雑木林が迫っているわが家には、タヌキやイタチやアナグマ、ムササビといった動物がやってきますが、青と赤の実の色を識別できる動物といえば、やはり鳥が食べに来ているのでしょう。手間暇かけて育てているのに、盗んで食べるとは、鳥よけしからんということになりますが、イチゴの身になってみると、果たしてそういえるのだろうかと考えてみます。
 
生長期に果実が青く渋いのは、見つからないためであり、見つかっても食べられないためです。熟れると赤くなり美味しくなるのは、容易に見つかって、大いに食べてもらうためです。食べ散らかして、種をあちこちにまき散らしてもらう方が繁殖のためになるわけですから、イチゴにしてみれば、鳥に食べられる方が本望なのかも知れません。
 
待てよ、『イチゴの実には種が入っているかな?』と疑問がわきます。種なしぶどうが栽培されているように、イチゴも種なしに品種改良されているのではなのか?。調べてみると意外なことがわかりました。私たちが実と思って食べている部分は、茎が厚くなったもので、『花托』(かたく)と呼ばれる部分なのです。
 
イチゴを食べると、表面にくっついている小さなツブツブにイチゴ独特の食感がありますが、じつはこのツブツブのひとつずつが『実』で、そのツブツブの硬い皮をはぐとその中に、小さなごまのような『種』が入っているのだそうです。
 
その種を採って蒔(ま)けば、ちゃんと発芽するそうですが、おいしいイチゴがつれるかというとそうではないそうです。イチゴは品種改良が進んで、一代交配種と呼ばれるものになっていて、ニ代目の種をとっても同じ甘さや同じ大きさ、形などの形質が受け継がれることはないそうです。
 
美味しいイチゴを食べたいだけなら、栽培するよりむしろ買って食べた方が良いでしょう。鳥に食べられてもあまり悔しがらずにいる連れ合い。やはり、育てる楽しみということなのでしょう。熟れた実はすっかり鳥に食べられてしまったイチゴに、今夕もたっぷり水を遣ります。
 

2015.05.25
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