コラム  ・鳳仙花(ほうせんか)   
鳳仙花(ほうせんか)
鳳仙花といえば、昭和生まれの田舎育ちなら誰もが知っている花に違いありません。そして、触れると果実が弾けるのが特徴の花でした。花言葉の『私に触れないで』や属名 Impatiens(ラテン語で『我慢できない』の意)は、その特徴に由来します。
 
田舎の暮らしや風景に馴染んだ花だからでしょうか、あるいはこぼれ種(人間が意図的に蒔いた種子ではなく、植物から自然にこぼれ落ちた種子のこと)でもよく生えるほどの丈夫な植物だからでしょうか、はたまた、頂部に葉が多く、花が目立たないためでしょうか、鳳仙花は地味な花のイメージでとらえられている感じがあります。
 
  よその子が少し憎くて鳳仙花  辻田克巳
  仔犬まだ貰ひ手つかず鳳仙花  芝山喜久子
  今もなほ借家暮しの鳳仙花   小林一行
  小庭にて一ばんの日向鳳仙花  瀧井孝作
  故郷を百度捨てし鳳仙花    杉田桂
  正直に咲いてこぼれて鳳仙花  遠藤梧逸
  愛の言葉に聡くて爆ぜる鳳仙花 寺井谷子
  母に似ぬ子の福耳や鳳仙花   水原春郎
 
♪やっぱり起用に生きられないね〜、日陰が似合う花だけど〜、おおきな夢などなくていいの〜。島倉千代子さん(1938年〜2013年)が歌った同名の歌謡曲に歌われているのも、上述のイメージの鳳仙花です。
 
 ・島倉千代子『鳳仙花』(1981年、NHK歌謡ホール)
 
さて、赤色の鳳仙花は、昔から女の子が爪を染めるのに使ったため、鳳仙花には『つまくれない、つまべに』(爪紅)という別名があります。爪に鳳仙花の汁を塗り、初雪が降るまで色が残っていたら恋が実ると言う伝承があったそうです。
 
  つまくれなゐ幾とせ零れ咲きにけり 松村蒼石
  つまべにの肉色の花を好みける   山口青邨
 
沖縄本島を中心に伝わる沖縄民謡に『てぃんさぐぬ花』という曲があります。歌詞は1番から10番まであり、♪ホウセンカの花は爪先に染めて、親の言う事は心に染めなさい、夜沖に出る船は北極星が目当て、私を産んでくれた親は私が目当て〜、などと、親や年長者の教えに従うことの重要性を説く教訓歌となっています。
 
実は、題名の『てぃんさぐ』は沖縄で『鳳仙花』のことなのです。沖縄では古くから鳳仙花の汁を爪に塗って染めるとマジムン(悪霊)除けの効果があると信じられていました。
 
沖縄を代表する教訓歌に歌われているわけですから、『鳳仙花の汁を爪に塗る遊び』がとても馴染み深い、一般的な遊びだったことが伺えます。
 
 ・ネーネーズ/【てぃんさぐぬ花】(沖縄民謡)
 

2021.08.11
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