コラム  ・『 贐(はなむけ) 』という字   
− 『 贐(はなむけ) 』という字 −

漢字には、基本的な漢字をいくつか組み合わせて、さらに複雑な意味を表そうとした「会意文字」があります。


『 贐 』という漢字が一字、上部中央に堂々と書かれた「祝い袋(のし袋)」があります。
・写真を見る → http://washimo-web.jp/Information/NoshiFukuro.htm


「はなむけ」と読むこの漢字の形を、じーっと見つめて浮かんだイメージがあります。


檜(ひのき)の葉っぱが敷かれた大きな皿に、見事な真鯛か伊勢海老が置かれています。新鮮で、まだ尾びれがピクピク動いています。その周りには、ハマグリやアサリがたくさん添えられていて、今にも皿からこぼれそうです。


魚貝類のお祝いを頂いて、門出を祝ってもらっているのです。そんなイメージが浮かびました。


さて、『 贐 』という漢字の、会意の本当の意味を調べてみました。本当の意味は、皿に魚貝類を盛ったイメージとはまったく違ったものでした。


盡(ジン)という漢字は、尽(つくす)の異体語で、刷毛(はけ)を手に持って、皿からものをかき出しつくすさま、または、手に持つ筆の先から皿に、しずくがたれつくすさまを示しています。従って、貝(宝やお金)+盡(出し尽くす)、すなわち、宝やお金を全部出し尽くすということを意味しています。


普通、「はなむけ」には、餞別(せんべつ)の餞(セン)の漢字が使われますね。戔(セン)という漢字は、「少ない」、「小さい」ということを意味しているので、食(酒食)+戔(小さい)、つまり、小ぢんまりした祝宴を意味しています。


昔の旅は、馬を使っていました。「はなむけ」は、出立のとき、旅する方向に馬の「鼻を向ける」の意から出た言葉です。辞林21(三省堂)には、次のようにあります。


はなむけ【餞・贐】
旅立ちや門出に際して、激励や祝いの気持ちを込めて、金品・詩歌・挨拶の言葉などを贈ること。または、その金品や詩歌など。


『 贐 』は、お金や宝を全部出し尽くして門出を祝う、『 餞 』は、小ぢんまりした祝宴で門出を祝う、漢字の本来の会意は、そのような意味ですが、実際は、門出を祝う形態や金品の多少に関係なく、2つの漢字は同意に使われているようです。


【備考】
辞林21(三省堂)のほかに、学研漢和大辞典、角川漢和中辞典を参考にしました。



2004.03.31
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