レポート  ・幸魂奇魂〜大国さまの話し   
− 幸魂奇魂〜大国さまの話し −
大国さまの愛称で親しまれる大国主神(おおくにぬしのかみ)は、イザナギとイザナミが生み出した葦原中国(あしはらのなかつくに、すなわち日本の国土)の国づくりを完成させた神様です。大国主神は、国づくりの大業が完成すると、天津神(高天原にいる神)である天照大神(あまてらすおおみかみ)にその国を譲ります。その代償として造営してもらったのが出雲大社でした。
 
大国主神には何十人もの異母兄弟の神がいて、総称して八十神(やそがみ)と呼ばれていました。気のやさしい大国主神は、いつも八十神たちに荷物を持たされるので、いつも大きなふくろを背中に背負っていました。そのころ、因幡(いなば)の国(現在の鳥取県東部)に、それはたいそう美しい八上比売(やがみひめ)というお姫さまがいました。
 
噂を聞きつけた八十神たちは、荷物を全部大国主神に持たせ、先を争って求婚に出かけます。その途中、赤裸にされて泣いている因幡の白兎に出会いますが、先を急ぎたい八十神たちはそれどころではありません。『海水を浴び、高い山の上で風に当たって寝ていればよい』といい加減なことを言って立ち去ります。八十神たちに言われた通りにしてすっかり傷だらけになってしまった白兎は、やがてやってきた大国主神に助けられます。
 
9世紀初頭、密教の伝来とともに元々はヒンドゥー教のシヴァ神の化身だった大黒天(だいこくてん)が日本に伝来してきました。大黒の『だいこく』が大国に通じるため、やがて神道の神である大国主神と混同され習合して、七福神の一柱の神として食物・財福をつかさどる『大黒さま』となりました。大黒さまが宝袋を背負っているのは、大国主神がいつも八十神たちの荷物を入れた袋を背負っていたことに由来します。
 
このように、神話『因幡の白兎』では、大きな袋を背負っているのが大国主神のイメージですが、ところが、大国主神を祭神とする出雲大社の御神像は、大きな袋も小槌も持たず、お腹の前に置いた両手で丸い玉を大事そうに抱きかかえています。例えば、
  → http://www.highlight.jp/izumooyashiro/02.html
 
大国主神が抱きかかえている丸い玉は、『幸魂奇魂』(さきみたま、くしみたま)を象徴する玉です。
 
日本の神道の概念では、神の霊魂が持つ側面には、荒魂(あらたま、あらみたま)と和魂(にきたま、にぎたま)の2つがあると言われます。荒魂は、神の荒々しい側面であり、天変地異を引き起こし、病を流行らせ、人の心を荒廃させて争いへ駆り立てる神の働きです。神の祟りは荒魂の表れです。それに対し和魂は、雨や日光の恵みなど、神の優しく平和的な側面であり、神の加護は和魂の表れです。和魂はさらに幸魂(さきみたま)と奇魂(くしみたま)に分けられます[1]
 
『幸魂(さきみたま)』とは、花が咲く、布を切り裂く、物が割き分かれるという言葉のように、物が分裂し、増加繁殖して栄える力を意味します。また『奇魂(くしみたま)』とは、櫛・串の言葉のように、櫛で乱れた頭髪を解いて整える、串刺しにして、それぞれの物を統一するというように、統一し調和する力を意味します。つまり、『幸魂』によって分化繁殖したものを統一し、調和のとれたものとして、一層発展させてゆく力が『奇魂』です。この『幸魂奇魂』の力によって、お互いの生命は正しい働きをします[2]
 
イザナギ亡き後、葦原中国の国づくりを完成させ、天の象徴である天照大神(あまてらすおおみかみ)に対して、大地を象徴する神格となった大国主神でしたが、最初から大きな力を持っていたわけではないでした。神としての使命を自覚し、その期待に応えるべき研鎖修養と瞬時も忘れることのない反省によって、真の神に成る努力をされたのでした。
 
ある時、大国主神は海の彼方から光が飛んで来るのに遭遇し、その光が御身に宿る幸魂・奇魂であることに気づき、その御霊に生かされているという自覚を得ます。出雲大社の松の参道を歩いていくと、松並木が終って銅鳥居をくぐる手前右手に『ムスビの御神像』という、とても象徴的な神像があります。これは、大国主神が、幸魂・奇魂のお蔭を頂いて神性を養われ『ムスビの大神』になられたという意味を象徴している像です。
 
ムスビの御神像
 
大国主神は、色々な女神との間に多くの子供(古事記では180柱、日本書紀では181柱)をもうけたことから、『縁結びの神様』と言われますが、男女の縁に限らず、身に宿る幸魂・奇魂のお蔭で、私たちは色々な縁を得て生かされているということでしょう。大国主神さえ謙虚な心でそれを自覚されたのです、いわんや人間をや。
 
【参考サイト】
[1]荒魂・和魂- Wikipedia、因幡の白兎- Wikipedia、大黒天- Wikipedia
[2]出雲大社ホームページ
 

2009.02.04
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