レポート  ・『コモディティ化』と『暗黙知』   
− 『コモディティ化』と『暗黙知』 −



『コモディティ化』と『暗黙知(あんもくち)』という聞き慣れない2つの言葉は、今、ものづくり立国・日本の産業界における最もトレンディなキーワードになっています。


コモディティ化にあえぐ先進国


コモディティ(Commodity)とは、「商品」の意味です。コモディティ化は、高価だった製品が、新しい製造・販売・流通形態の確立によって、一般消費財のように安く手に入れられ、日用品化する意味で用いられています。


多くの製品が、大豆や原油などのようにグローバルなスケールで取引されるようになった結果、中国製品のような激安商品が世界市場を席巻(せっけん)するようになりました。


そして、インターネットの普及によって、消費者は最新の商品情報をいつでも簡単に入手できるようになり、同じものを買うなら一番安いところで買おうとします。その結果、継続的に価格は下がり続けて、どんどん世界的な統一価格へ向って行きます。


例えば、10年前は10万円だった25インチのカラーテレビは今3万円です。ところが出荷台数は、今も10年前と変わらないので、利益が出るはずがありません。2年前は4万円前後だったDVDは、現在は1万円強です。たった2年間で4分の1にまで低価格化しています。


このように、たとえ先端技術を駆使して製造される製品でもコモディティ化が進むと、商品としての付加価値は低下します。コモディティ化の進展による商品価格の急激な下落によって企業は低収益を余儀なくされ、高賃金のわが国の製造業は、価格破壊や取引先からの値引き要求にあえぎ苦しんでいます。


いろいろな商品を安く買えるのですから、消費者としての立場から考えると結構なことですが、企業の収益が減り不景気になると失業・賃金カット、低賃金化という形で私たちに跳ね返ってきます。


形式知による技術移転


”知識”のうち、言語や数式や図表で客観的に表現できる知のことを「形式知」と言います。先進国で、新しい製品が開発されると、その製造、販売、使用方法等に関する知識は、技術として言語や数式や図表などで表現されます。


形式知で記述された技術は、すぐに後進国に移転(コピー)され、先進国で作るのとなんら遜色(そんしょく)のない品質の製品が、安い労働力を使って低コストで即生産されます。


IT(情報通信技術)は、「形式知」をデジタル化し、それを移転することを得意としますので、IT革命の進展は、ますます知識や技術のグローバルな移転を促し、知識や技術さえもコモディティ化します。


暗黙知(あんもくち)


このように、20世紀の量産型ものづくりの道がふさがれた今日、クローズアップされているのが「暗黙知(あんもくち)」です。


暗黙知(あんもくち)とは、”知識”のうち、勘(カン)や直感、個人的洞察、経験に基づくノウハウなどのことで、言語・数式・図形で表現できない主観的・身体的な知のことを言います。


自転車に乗ることができても、どのようにすれば乗れるようになるかを語ることは困難です。自転車に乗るスキルは、ベタルへの足の乗せ方、体重の移動の仕方など、細目の要素によって構成されているのでしょうが、その詳細を説明することはできません。しかし、自転車に乗れる人は、スキルを体得していて、説明できないながらも何かを知っているはずです。それが”記述不能な知識”、すなわち「暗黙知」です。


「暗黙知」は、容易には言葉で表現したり、数式で記述したりできないので、移転(コピー)されにくいです。移転されにくいので、持続的な優位の源泉となるというのです。


暗黙知からの価値創造


しかし、「暗黙知」の多くは、主として個人に帰属します。個人の暗黙知をどのように引き出し、全社的なイノベーション(技術革新)のエンジンに仕立てていくか、今次のような価値創造プロセスが検討されています。


(1)個人の暗黙知を組織の暗黙知に変換する(共同化)。
(2)組織の暗黙知を形式知に変換する(表出化)。
(3)表出された組織を組み合わせて体系化する(連結化)
(4)組織の形式知を個人の暗黙知に取り込む(内面化)。


この4つのモードをスパイラルに繰り返しながら、知を創造していくというものです。


大改造!!劇的ビフォーアフター


このレポートを書いている机の横で、テレビが「大改造!!劇的ビフォーアフター」というリフォームの人気番組をやっています。コモディティ化は、住宅産業も同じです。ただ建てて売っても儲からなくなっているし、需要も細っています。加えて、インターネット販売による低価格化も始まっています。


住宅産業は今、産業的にはリフォームのほうにシフトしていると言われています。リフォームするそれぞれの住宅にあわせて匠(たくみ)の勘(カン)とセンスと経験が冴(さ)えます。


単にハードウェア(建物)を売るという製品から、「大改造!!劇的ビフォーアフター」という番組に見られるように、 売った後の、使い方、リサイクル、グレードアップ、メンテナンス、コンサルティング、コンテンツソフトも含めた製品の提供というふうにプロダクト(製品)概念が変化してきています。


そうなると、文化や人間の感性、経験や勘などの「暗黙知」が大きな役割を担うようになります。量産型ものづくりの行き詰まりを打破するイノベーションエンジンとして、「形式知」と「暗黙知」をうまく融合した価値創造プロセスが模索され始めています。



2004.03.03   
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