コラム  ・『赤チン』よ、ありがとう!   
− 『赤チン』よ、ありがとう! −
1947年(昭和22年)〜1949年(昭和24年)に生まれた、いわゆる団塊の世代の者なら子供のころ何度か塗ってもらった記憶のある『赤チン』。皮膚・キズの殺菌・消毒に用いられた局所殺菌剤。正式名称をメルブロミン液、商品名をマーキュロクロム液と言います。
 
同じく殺菌・消毒液であるヨードチンキが茶色なのに対して、マーキュロクロム液は赤色だったことから『赤いヨードチンキ』の意味で『赤チン』という愛称で呼ばれ親しまれてきました。
 
但し、ヨードチンキと赤チンは化学的組成が全く異なります。ヨードチンキが傷口に塗った瞬間猛烈な痛みを伴うのに対して、赤チンキは痛みがなかったので、家庭や小学校の保健室に手軽な消毒薬として常備されるようになりました。
 
マーキュロクロム液は、有機水銀剤マーキュロクロムの1〜2%水溶液で水銀を含みますが、皮膚浸透性が低く、かつ濃度が薄い希釈液のために毒性が小さく、外用剤として使う限りにおいては安全とされ、最盛期には 100社ほどが生産していました。
 
しかし、水銀公害が問題となった1960年代以降は、赤チンの製造過程で水銀の廃液が発生することから敬遠され、1973年(昭和48年)には原料の国内生産が中止となりました。加えて、1971年に無色の消毒液である『マキロン』が登場すると赤チンキの売れ行きは落ちる一方となります。
 
但し、原料を輸入することは禁止されていなかったため、愛用者に応える形で平成に入ってからも一部の企業で赤チンの製造販売を続けられてきました。ところが、日本薬局方からマーキュロクロム液が外れた2019年6月以降も製造を続けていた国内唯一の『赤チン』製造会社・三栄製薬株式会社(東京都世田谷区)が、2020年12月24日製造、25日包装分をもって製造を終了することが明らかになりました。
 
2021年以降、マーキュロクロム水溶液が、水銀灯(ガラス管内の水銀蒸気中のアーク放電を利用した光源)などとともに、『水俣条約』(水銀を使用した製品の製造、輸出入を規制する国際条約)の規制対象となることが背景にあります。
 
転んで擦りむいた膝小僧に母が塗ってくれた赤チン。元気じるしだった、はたまたガキ大将の勲章だった赤チン。昭和の人たちだけしか知らない、昭和を代表的する光景の一つがまた消えていきます。『赤チン』よ、ありがとう!。
   

2020.12.23
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