コラム  ・あいまいさについて   
− あいまいさについて −

「タデ食う虫も好き好き」と言うように、藍(あい)は、蓼(タデ)科の目立たない草ですが、その草から、あの藍色が染め上げられます。そのため、「出藍の誉れ」とか「藍は藍よりい出て藍よりも青し」とか言われます。


新緑の時季です。古くから、緑に染まる植物染料がなかったらしく、最初にミカン科の落葉高木である黄蘗(きはだ)を使って黄色に染めたものを藍に漬けて緑色を得ていたと言われています。そのため、一般には、緑も青と言ったようです。


日本には四季があって、一つの季節から一つの季節へ季節が移ろうなかで、自然は、さまざまな色合いの変化を見せます。それらのさまざまの色合いは、染料に取り入れられてきものが染められ、日本の文化、芸能、芸術にも少なからず影響を及ぼしてきました。


歴史と伝統に育まれ培われてきた日本の伝統色にはさまざまな色合いがあり、藍を基調とする青系、緑系にも、独自の呼び方をする色合いがいくつかあります。


春先の草や葉の萌え出る、黄みをおびた緑の淡い色を「萌黄(もえぎ)」と言い、藍染めの浅い段階の色で葱(ねぎ)の色に似ているところから、「浅葱(あさぎ)」と呼ばれる青色もあります。


「青丹よし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり」(万葉集)


〈宮殿の青瓦のあおもよし、宮殿の柱の朱色(丹)もよし、すべてがすばらしい奈良の都は、満開の梅がいい香りを放っているように、いま真っ盛りで賑やかなことよ〉と歌われ、「奈良」にかかる枕ことばとされる「青丹(あおに)」と呼ばれる緑色もあります。


・日本の伝統色 → http://www.kyoto2001.com/kyoshiki/tenji/0040310/z-2001hp/tenji-nihonnodentosyoku.htm
・有職故実・色見本 →
http://lt.sakura.ne.jp/~asagao/yuusoku/iro.htm


緑を青といったり、萌黄(もえぎ)、青丹(あおに)といってみたり、あいまいなのが日本語の特徴です。白洲正子(しらす・まさこ、1910〜1998・明治43年〜平成10年〉さんの著作物からは、いろんなことを教わり、いろんな想いを知りました。エッセイ集『夕顔』(新潮文庫)で、白洲さんは、つぎのように述べています。


「あいまいなのが日本語の特徴である。何故(なぜ)あいまいなのか、それは自然を見る眼(め)が、それほど深く、こまやかであったということで、曖昧模糊(あいまいもこ)とならざるを得なかった。」


「あいまいなのは色彩に限るわけではなく、日本語はすべてにわたってそうなのだが、それはごまかしているのでなく、正確にいおうとして複雑になったので、この特徴を私は恥(は)じるどころか、大切にしたいと思っている。」
                                         『夕顔』より


これから、春から初夏、そして夏へ季節が移ろっていくなかで、自然がさまざまな色合いの変化を見せる時期です。


〔備考〕
【藍(あい)】タデ科、花期は秋
 → http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/HTMLs/ai.html

【黄蘗(きはだ)】黄緑、小花、5-6月頃,ミカン科の落葉高木
 → http://www.hotweb.or.jp/ninniku/ikimono-ki.htm


※『夕顔』白洲正子・著/新潮文庫/2003年(平成15年)3月第7刷から一部分文章を引用されて頂きました。

2004.05.05  
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