レポート  ・第十五代 沈壽官さんのことば   
 
− 第十五代 沈壽官さんのことば −
2013年9月21日(土)、鹿児島市関東交友会主催の『薩摩から日本を変えよう!〜薩摩編〜』というシンポジウムが鹿児島市内で開催され、聴講させてもらいました。基調講演のあと、6名のパネラーによるパネルディスカッションが行われました。パネラーの一人として登壇された第十五代 沈壽官(ちんじゅかん)さんのことばが印象に残ったので紹介させて頂きます。
 
(1)今思っていること
 
薩摩焼にしろ、ほかのものにしろ、鹿児島でものをつくる、ローカルでものをつくるということの意義、意味とは何かという問題意識を持ち続けている。
 
(著者注)第十五代 沈壽官さんの著作物に次の文があります。
 
8月16日から3日間、白薩摩の原料調査を行なった。 (略中) 3年前、フランス国立セーブル美術館で開催された『パリ薩摩焼展』に於いてフランス側から『薩摩焼の定義とは?』との問いかけは私に大きな問題意識を与えた。
 
従来は鹿児島県内で生産された焼物は大括りで薩摩焼と総称してきた。しかし、それでは伝統工芸品も創作陶芸の同じカテゴリーに属してしまう。その分かりにくさが伝統産業としての白薩摩製造の衰退に拍車を掛けている事に気付いたのだ。
 
未来に一筋の光明を見出すには、どうすれば良いのか。その問いの答えは意匠や製造の精度を増すだけではなく、焼物の原料そのものをローカルに仕上げていかなければならないという事であった。即ちローカルをより上質に磨き上げる事がオンリーワンである事に気付いた。〜『炉ばたセイ談』第7号(平成23年9月発行)より。
 
(2)幕末と薩摩焼
 
関ヶ原の戦いの2年前の1598年、(豊臣秀吉の朝鮮出兵−慶長の役−で)捕虜となって日本に連行されて来たのは薩摩焼の陶工だけではなかった。有田、伊万里、唐津、萩もしかりであった。狭い地域にこれほど多様なやきものが分布しているのは世界的にもめずらしいことである。
 
白磁用の陶土を17年間探し求めて、やっと笠沙(現南さつま市笠沙町)で見つけた。以来、藩御用達用として『白薩摩』が焼かれてきた。幕末になると薩摩藩(島津斉彬公)から@集成館事業の溶鉱炉(反射炉)用の耐火レンガをつくれ、A装飾を施した白薩摩をつくれ、という2つの命令が出された。
 
ヨーロッパでは白磁だけでは売れないので、染付や色絵、金彩などで装飾を施せということだった。薩摩藩は独自で1867年(慶応3年)のパリ万博に薩摩焼などを出展した(大政奉還が行われる前の出来事である)。薩摩切子なども含め 400箱にも及ぶ数の出品だった。
 
卵の殻のような色合いの肌に繊細な装飾が施された白薩摩は、当時、東インド会社がアジアから運ぶ中国製やそれに類似した有田の焼物しか知らなかったヨーロッパの人々を驚かせ、ジャポニスム(フランスを中心にヨーロッパで見られた日本趣味)流行のきっかけになった。
 
さらに1873年(明治6年)のウィーン万博には薩摩陶器会社として出品した。当時、薩摩焼の生産量は日本全体の3%に過ぎなかったが、いち早くヨーロッパ市場を見据えて製作がなされていた。
 
(3)関係がぎくしゃくしている韓国にどう向き合うか
 
日本人にとっても韓国人にとっても、マスコミを通じてしか情報が得られないということは恐いことである。今回も韓国で薩摩焼展を開催する。いろいろと(民間)交流が続けられているから、きっとわかってもらえるときがくる。とにかく、私たち(日本人)は、自信を持って、自分たち(日本)の良さを磨き上げることだ。
 
(4)これからの鹿児島について一言
 
本物のものづくり。これ以上ないというところまで追い込んだものづくり。
 
【第十五代 沈壽官さんのプロフィール】
江戸時代より続く薩摩焼の沈壽官窯十五代当主。1959年生まれ。1983年早稲田大学卒業後、本格的に作陶を開始。1988年にイタリア国立美術陶芸学校GAETANO BALLARDINIファエンツァ校専攻科卒業。1990年に韓国の金一萬土器工場でキムチ壷制作を修行。1999年に十五代沈壽官を襲名。2001年大韓民国ソウル『世界陶器EXPO2001』、2002年米国ニューヨーク『ASIA SOCIETY MUSEUM』に出品の他、日本各地にて個展を開催。2010年パリのエトワール美術館にて『歴代沈壽官展』を開催。2011年12月大韓民国南原市名誉市民に推挙される。〜『薩摩から日本を変えよう!』のパネラープロフィールより。
 
【備考】
パリ万博でヨーロッパの人々を驚かせたという第十二代の作品を初めとして、歴代の沈壽官の作品を沈壽官窯の『収蔵庫』で鑑賞することができます。鹿児島にお出での機会がありましたら、是非一度訪ねてみて下さい。下記の旅行記が参考になります。
 
 旅行記 ・薩摩焼のふるさと〜美山
   → http://washimo-web.jp/Trip/Miyama/miyama.htm
 旅行記 ・美山窯元まつりの日
   → http://washimo-web.jp/Trip/Miyama02/miyama02.htm
 

  2013.09.25
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