書籍紹介  ・最近読んだ本/お薦(すす)めの一冊(4)   



【書籍のご案内・book】

本の表紙とは関係ありません。
『生きる』

乙川優三郎・著
文藝春秋/2002年(平成14年)1月第1刷/定価¥1286


家に幸運をもたらす花だった菖蒲が今年は、十日余り育ちが遅れている。男は不吉な予感を持つ。果たして、藩主の死から悲劇が始まった。藩主に殉じて殉死する覚悟でいた又右衛門は、殉死をしてはならないという家老との密約を愚直なまでに守る。しかし、周囲からの誹謗中傷と軽蔑は、息子や娘の夫さえ自殺に追いやる。妻も苦労の果てに亡くなり、気の触れた娘は行方知れずになる。生きることは死ぬことより辛い。それでも、〈何もせず、ただ恐れ立ち尽くし、嵐が去るのを待っていただけではないか〉、又右衛門は、尊厳を取り戻し、胸を張って生きようとするが・・・。そして、苦境を生き抜いた又右衛門が、菖蒲の群生する雨上がりの庭で目にするものは・・・。現代に殉死などはないけれど、理不尽と思えることに耐えて行かなければならないとき、人は何を支えに生きてゆけばよいのか。乙川優三郎の第127回直木賞受賞作品。表題作のほか、『安穩河原』、『早梅記』の三篇を収録。(2004.04.24)



【書籍のご案内・book】


承諾を得て表示しています。
『「原因」と「結果」の法則』

ジェームズ・アレン著(坂本貢一訳)
サンマーク出版/2003年(平成15年)4月初版/定価¥1200

翻訳家の坂本貢一さんが、アメリカ人のある老婦人から、「何かあって落ち込んだりしたときに読んでごらんなさい。人生なんて、とても単純なものなのね」という言葉と一緒にもらったという一冊の本。現代成功哲学の祖たちが、もっとも影響を受けた伝説のバイブルと言われ、聖書に次いで一世紀以上ものあいだ多くの人々に読まれつづけている、驚異的な超ロング・ベストセラーだといわれています。目に見える物質の世界において、私たちは、結果には必ずその原因があることを知っています。「原因と結果の法則」は、目に見えない心の世界においても同じだと言うのです。つまり、「思い」がすべてを決める。高校や大学の入学祝い、進級祝い、就職祝いや誕生日プレゼントなどとしてお薦めの本です。最後の章は「穏やかな心」についてです。人生経験豊かな中高年の方々にもお薦めです。(※宗教の本ではありません。)(2004.04.06)



【書籍のご案内・book】


(C)新潮社
『月の松山』

山本周五郎・著
新潮文庫/2003年(平成15年)11月第21刷/定価¥590

「ごらんなさい、この梅にはまた蕾(つぼみ)がふくらみかけていますよ、去年の花の散ったことは忘れたように、どの枝も初めて花を咲かせるような新しさで、活き活きと蕾をふくらませています、帰って来る半之助にとって自分が初蕾であるように、あなたの考えることはそれだけです、女にとってはどんな義理よりも夫婦の愛というものが大切なのですよ」「顔をおあげなさい、民さん、・・・よく辛抱なすったことね」。2003年12月8日 に、TBSテレビ・山本周五郎生誕100年記念番組で放映され評判を得たTVドラマ『初蕾(はつつぼみ)』(主演・宮沢りえ、東山紀之、宇津井健、若尾文子、池内淳子ほか)の同名の原作が収められている短編集。表題作『月の松山』は、あと百日の生命と宣言された武士が、己を醜く装うことで師の家の安泰と愛人の幸福をはかろうとする苦渋にみちた心情を描く。そのほか、全10編が収められています。
(ご参考 → 『雑感 ・
山本周五郎の短編小説』)(2004.02.23)



【書籍のご案内・book】


本の表紙とは関係ありません
『ケータイを持ったサル』

正高信男・著
中公新書(中央公論新社)/2003年(平成15年)9月初版/定価\700

サルが携帯を持った話しではありません。日本人は「人間らしさ」を捨てて、サルに退化し始めているのではないか? 自室に閉じこもって「家の外」へなかなか出ようとしない「ひきこもり」。一方、「ケータイ」でいつも他人とつながりたがる若者たち。両者は正反対に見えるが、実は成熟した大人になることを拒否する「家のなか主義」という点で共通している。気鋭のサル学者(京都大学霊長類研究所教授)・正高信男(まさたか のぶお)氏の、目からウロコの家族論・コミュニケーション論。多くの示唆を与えてくれる本です。第1章「マザゴンの進化史」、第2章「子離れしない妻と居場所のない夫」、第3章「メル友を持ったニホンザル」、第4章「関係できない症候群の蔓延」、第5章「社会的かしこさは40歳で衰える」、第6章「そして子どもをつくらなくなった!」の6章からなります。 (2004.02.17)



【書籍のご案内・book】


本の表紙とは関係ありません
『半落ち』

横山秀夫・著
講談社/2002年(平成14年)9月第1刷発行/定価\1700

半落ち(はんおち)』とは、容疑者が容疑を一部自供するも完全に自供していない状態のことを言います。「殺して欲しい」と嘆願されてアルツハイマー病に苦しむ妻を絞殺した49歳の現職の警察官は、いったん死を覚悟しますが自首したのは犯行の日から3日後でした。男は、犯行後の空白の2日間の行動について、固く口を閉ざして語ろうとしません。どこに行って何をしていたのか? 男はなぜ、あと1年だけ生きようと決心したのか。組織のしがらみと葛藤しながらも、それぞれの立場を超えて空白の2日間の真相を明らかにしようと、刑事、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、そして刑務官の6人の登場人物が犯人の内面に迫ります 。宝島社や週刊文春で紹介されて話題となった、夫婦の愛と親子の情、そして人間愛に迫る感涙の犯罪ミステリー。映画化され、2004年1月10日全国東映系で公開。直木賞選考会の席で「事実誤認」が指摘されたことでも話題になりました(2004.02.03)


【書籍のご案内・book】


『ちえこさんのスケッチ画集』より
『時雨の記』

中里恒子・著
文春文庫/1998年(平成11年)7月新装版第1刷/定価\438

古典的で王朝風の感じの漂う書名のこの小説は、50を過ぎた妻子ある会社社長と大磯の山沿いの屋敷に侘住居(わびずまい)する40代の寡婦のひそかな恋の物語です。若かった頃、壬生(みぶ)は通夜の席で一人の女性に見惚れます。しかし、女性は資産家の三男坊の若夫人でした。それから20年余を経て、50を過ぎた会社社長の壬生は知人の息子の結婚式で女性と再会します。翌日、矢も楯もたまらず、茶道具とてんぷらを手土産に、今は寡婦となった多江(たえ)を大磯の侘住居に訪ねてしまいます。『時雨(しぐれ)のように、壬生がさっと通りすぎていってしまっても、多江の肩に、濡れた露がしっとりと残っていることは、疑いようもないことでした。』 日本の自然と文化の中で、しずかで高雅な大人の恋は、究極の純愛へと昇華していきます。新しく発行された新装版文庫本で10年振りに読み返した小説です。 (2004.01.20)



【書籍のご案内・book】


本の表紙とは関係ありません
『武家用心集』

乙川優三郎・著
集英社/2003年(平成15年)8月初版発行/定価\1500

久し振りに読んだ時代小説は、乙川優三郎氏の最新作『武家用心集』。乙川氏はこれまで長編が主だった作家ですが、この作品は、1編1編が丹念に書かれたクオリティの高い短編集です。「しずれの音」「九月の瓜」「邯鄲(かんたん)」「向椿山」など全8編。どの編も人生の岐路に立った人々の苦しみや悲しみが描かれていますが、波風が立とうと、絶望が立ちふさがろうと、不器用な生き方しかできなかろうと、己を失うことなく、凛(りん)として前向きに生きようとする主人公たちです。そして、例えば、年老いた介護の必要な病身の母親の処遇を巡り、実家と婚家の狭間(はざま)で苦悩する女性を描いた「しずれの音」のように、いつの世でも人間や社会が抱える普遍的な問題がテーマとして描かれています。「 今どき時代小説なんて・・・」と思われる方も是非1編だけでも読んでみて欲しい本です。(2003.12.17)


あなたは累計
人目の訪問者です。