レポート | ・シンガポールの水問題 |
− シンガポールの水問題 −
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『 下水の濾過(ろか)水を飲めますか? 』 これは、シンガポールの水資源問題を象徴的に物語っているフレーズです。 1963年に、マレーシア連邦から「足手まといだ」と見捨てられるようにして分離独立せざるを得なかったシンガポールの歴史は、独立・自立への歴史でした。淡路島ほどの狭い国土に 420万余の人々が暮らす国は、積極的な統制政策によって今やアジア有数の経済先進国・観光大国になりました。 しかし、社会の原動力となる最も大切な資源のひとつであり、人々の生命線である水を、未だにマレーシアからの輸入に頼っているのです。 シンガポールとマレーシアのジョホール・バルを結ぶ全長約1kmのコーズウェイ橋には、橋上に3本、橋下に1本、そして海底に2本、計6本のパイプラインが敷設され、マレーシアからシンガポールに向けて水が送られています。 シンガポールは、年間降水量が日本より多いのに、国土が狭く平坦なため貯水能力に乏しく、国内水源だけでは必要な消費量をまかないきれないのです。 そこで、シンガポールはマレーシアのジョホール州に浄水場を持ち、マレーシアから購入した水をそこで浄水加工して国内に送水し、必要な消費量の約半分をまかなう一方、上水の一部をマレーシアへ再販しています。 ジョホール州からシンガポールへの送水は、イギリス植民地時代の1920年代から始まったそうです。当時はマレー半島も同じくイギリスの統治下にあったため、地域間の水の分配ということでした。 しかし、1963年にシンガポールが独立すると、送水に関して二国間の取り決めが必要になり、1961年と62年に『Johor River Water Agreement 』という合意が締結されました。 シンガポールは、その取り決めの有効期限(1961年の合意が2011年、1962年の合意が2061年)までは、マレーシアから現行の値段で水を買うことが保障されていますが、合意が効力を失った後、マレーシアは 100倍に及ぶ水の値上げを断行する意向だと言うのです。 そこで、シンガポールは、近い将来水の完全自給を目指して、海水の淡水化技術と共に、下水を濾過洗浄して上水として再利用する技術開発を進めています。 ニューウォーター(NEWater )と呼ばれる水の再利用は、家庭排水を下水処理場で処理した後、さらに濾過・殺菌など3段階の浄化処理を施し、飲用可能な水準まで高度処理して再利用するものです。 ニューウォーターとして処理された水は、再び貯水池に戻され、上水源に加えて利用されていると共に、ペットボトル入りが頒布され、首相や閣僚らがニューウォーターを直接口にする様子をテレビや新聞紙上で流すなど、下水処理水と言うイメージを払拭する努力がなされています。 シンガポールの水資源開発にはマレーシアの利害関係もからんで、両国間で政治的な綱引きがいろいろなされているようです。 シンガポールは食料もほとんど輸入に頼っていますが、食料は、近隣の一国のみからでなく他諸国から輸入できます。しかし、水はそうは行きません。ライフラインを確保するため、シンガポールは水資源開発に必死にならざるを得ないのでしょう。今後の技術開発に関心が持たれます。 【参考にしたサイト】 [1]特集:シンガポールの水循環政策(CLAIR:(財)自治体国際化協会) → http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/sp_jimu/162_4/ [2]シンガポールの水源問題 → http://www.geocities.jp/kskmt_online/JP/JP_singapore_water.htm *** 〔補遺〕 〜〜 『大量の仮想水を輸入している国・日本』 〜〜 わが国でも、夏になると地域的に水不足という事態が起きますが、シンガポールのように隣国から水を輸入したり、下水を濾過(ろか)して再利用する必要性を感じる人はほとんどいないと思います。 ところが、私たちは海外の水資源に依存した生活を営んでいるのです。農産物や工業製品を生産するのに必要な水のことを『仮想水』(バーチャルウォーター)といいますが、食料自給率がカロリーベースで40%というわが国は、海外の水資源なしには済まされないのです。シンガポールの水資源問題は決して対岸の火事ではありません。詳しくは、下記アドレスにレポートがあります。 → http://washimo-web.jp/Report/Mag-VirtualWater.htm |
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2006.04.19 | ||||
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