コラム | ・侘助と沙羅の花 |
− 侘助と沙羅の花 − |
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『あら侘助が咲いている』おげんが池のほとりを指さした。見ると、松に囲まれた小さな椿が薄赤い花を咲かせている。杢助はひっそりと咲く花を眺め、泣いているらしいおげんの肩を眺めた。丸くて、厚みのある肩だった。松葉がその上にこぼれてきた。杢助は、指先でつまんで取ってやった。〜
北原亜以子著『その夜の雪』(新潮文庫) 侘助(わびすけ)は、ツバキ科の園芸品種で、ツバキとチャ(茶)の雑種といわれる常緑低木です。一般の椿よりも花期が早く、晩秋から咲き始めるので、俳句では冬の季語とされます。 名の由来は、秀吉の朝鮮出兵の際に『侘助』という人が大陸から持ち帰った品種であるからだとか、千利休に仕えた『侘助』いう者が育成したからだという説があるようです。 花数も比較的少なく、花は開ききらずいわゆる半開きの猪口咲きなのがワビスケ系のツバキの特徴で、その控え目な感じが茶花として好まれているようです。侘(わび)と数寄(すき)から名付けられたとも言われます。 岐阜にお住まいの風眠さんから、侘助と沙羅の花の写真を送って頂きました。侘助は赤ではなく白侘助です。床の間に生けられた白侘助の一輪挿し、あるいは中庭の築山に凛として咲く白侘助、ちょっとした瀟洒な茶店かお食事処に似合う花のように思います。 侘助や茶店の暖簾淡萌黄(うすもえぎ) ワシモ 一方、沙羅(しゃら)の花は、同じツバキ科で白侘助に似ていますが、初夏に咲く花木で、夏椿とも呼ばれます。一般の椿が葉に厚みと光沢があるのに比べ、沙羅の葉は葉脈はあるものの、厚みと光沢がなく、その代わりに微毛を生やし、初夏らしい黄緑色をしています。 侘助が、冬の寒さに耐えて、割と花が長持ちするのに対して、沙羅の花は、朝に咲き夕べに散るので『一日花』とも称されます。一つの花が散っても次の花がすぐ咲くように、たくさんの蕾が開花に備えてスタンバイしています。音もかそけく散った花は、苔庭に一面の花筵を作ります。 一日花のはかなさが栄枯盛衰を感じさせるのでしょう、例えば、源平藤戸合戦の供養寺で知られる倉敷市の藤戸寺や秀吉の正室、北の政所(ねね)の別邸跡と伝えられ、樹齢 250年の沙羅の大樹がある神戸市有馬温泉の念仏寺などでは、『沙羅の花鑑賞会』が開かれるようです。 また、岐阜市にある三甲美術館は、ルノワール・シャガール・梅原龍三郎をはじめとする、著名作家の油彩・日本画・彫塑・陶磁器・工芸品等幅広いジャンルの美術品が展示されている美術館ですが、沙羅双樹の美術館としても有名で、毎年6月中旬 〜下旬の見ごろの時期は、琵琶の演奏会も催され、多くの人で賑わうそうです。 沙羅の花聞こえし琵琶や壇ノ浦 沙羅双樹群れし蕾に花二輪 ワシモ 風眠さんには、送って頂いた写真に句を載せて、写真俳句にして頂きました。 ・写真俳句を見る → http://washimo-web.jp/Report/wabisuke&syara.jpg 【備考】 ・風眠さんのホームページ『風眠のサロン』のアドレスは下記の通りです。 → http://www2.ocn.ne.jp/~fuhmin/ |
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2006.03.01 | ||||
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