俳句鑑賞  ・昭和的な夏   
− 昭和的な夏 −

ダイヤモンド・オンライン(ダイヤモンド社)の『飛ぶように売れる扇風機、土鍋、魔法瓶―。この夏、節電で見直される「昭和的グッズ」の数々』という見出しの記事が2011年5月11日、ネット配信されました。
 
原発事故の影響で電力不足が懸念されているこの夏ですが、気象庁の発表した3ヵ月予報によると、記録的猛暑となった昨年に続いて今年の夏も気温が高めになる見込みだそうです。そんな中で首都圏では早くも夏物商戦が本格化していますが、エアコンに代って『扇風機』が売れ、『土鍋』『魔法瓶』といったレトロな“昭和的グッズ”が注目されているそうです。
 
古来日本人は、生活の知恵としていろいろなグッズ(道具)を編み出して利用し、自然のなかで自然と折り合いながら暑さを凌いできました。それが夏の風物詩となり、日本人の季節感や情緒を醸成してきました。夏の季語にそのことが伺われます。
 
団扇(うちわ)は中国から伝わったものですが、江戸時代に岐阜・京都・丸亀(香川県)など各地で製作が盛んになり、庶民まで普及しました。現在、丸亀が全国シェアの80 〜 90%を占めているそうです。
 
   故郷の風の匂へる古団扇        青柳薫也
   胡坐(あぐら)して大きく使ふ渋団扇  小原菁々子
 
久し振りに帰省した実家。暑いので団扇を探して使えば、〇〇電気商会などと広告の入っている古団扇です。子供の頃の風景がよみがえってきます。『渋うちわ』は『柿うちわ』とも呼ばれ、竹の骨に紙を貼って柿渋を塗り重ねて丈夫にした団扇です。水や虫に対する耐久性もあり、竈(かまど)があった頃、火起こし用によく台所で使われていた記憶のある団扇です。
 
『端居』(はしい)とは、室内の暑さを避けて、縁先や風通しの良い端近くに座を占め、庭の木々や草花などを眺め涼をとることをいいます。日本情緒あふれる言葉ですが、近年住宅事情からそうした風情が楽しめにくくなったのは寂しいことです。
 
   端居してかなしきことを妻は言ふ  村山古郷
   山荘の月よき夕べ端居して     高木晴子
 
『蚊帳』(かや)は、麻や木綿製の萌黄(もえぎ)色で、赤い縁布がついていて風情のあるグッズでしたが、殺虫剤が普及し出した昭和40年代の初めの頃から使われなくなりました。本HPの管理者の生まれ育った田舎では、子供の頃は雨戸を開け放して寝ていましたから、蚊帳が夜気で揺れ、蛍が舞い込んできたりしたものでした。
   
   蚊帳吊って見るふるさとの夢ばかり  金尾梅の門
   子の蚊帳に妻ゐて妻もうすみどり   福永 耕二
 
夏の昼下がりや夕方、暑さや埃を抑えるため、庭・門辺・路地などに水を撒くことを『打水』(うちみず)といいます。水を打つと庭の木や草が蘇ったように緑を増し、にわかに涼しさを覚えます。
 
   打水やもとより浄き飛騨格子  林 翔
   打水に夕べせはしき木挽町   武原はん
 
武原はん(1903〜1998年)は、昭和期に活躍した舞踊家。関西から発した上方舞(座敷舞)を芸術の域にまで高めた稀代の舞の名手といわれ、上京後、新橋の芸者として活躍。俳句も詠み句集や随筆集があります。一句は、木挽町(銀座)の『なだ万』で働いていた頃の作と思われます。
 
『簾』(すだれ)は、通風を良くし、日を遮るための調度品。江州葭(ごうしゅうよし)は滋賀県(特に近江八幡)の特産。伊予(愛媛県)産の伊予竹(簾蘆)でつくる伊予簾も有名。
 
   一枚の簾に島のかくれけり  茂野一子
   竹すだれのみ新しき骨董屋  檜 紀代
 
蚊を追い払うために松・杉などの葉や蓬(よもぎ)などを焚いていぶすのが『蚊遣』で、除虫菊や最近では化学薬品を原料とする渦巻状の線香が蚊取線香です。
 
   むささびのくるかも知れぬ蚊遣焚く 斉藤夏風
   ほそぼそとまもるいのちや蚊遣香  宮部寸七翁
 
ダイヤモンド・オンラインの記事は、『先の震災は、この国に多くの悲しみや苦しみをもたらした。それと同時に、日本人のメンタリティも大きく変わり、日本中が、いや世界中が劇的に変革する転換点になったことは言うまでもない。筆者はそこに“原点回帰”の流れを強く感じるが、虚飾を廃し、ものの本質を再評価しようとする動きは、ある意味良いことだと言えるのではなかろうか。』という記者の結びで終っています。
 
【参考】
・合本俳句歳時記第三版(平成九年五月初版発行、角川書店)  


2011.05.18  
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